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えひめ、昭和の記憶 ふるさとのくらしと産業10-西条市-(平成28年度「ふるさと愛媛学」普及推進事業)

2 さまざまな農作物を育てて

(1)農業の大変さと販売の工夫

 「私はたくさんの農作物を栽培していますが、それは一つ一つの作物の状態が悪ければ、私自身の生活が成り立たなくなってしまうからです。現在は、愛宕柿、キウイフルーツ、キュウリが中心です。野菜については、以前はホウレンソウや小松菜を栽培していたこともあります。現在は、農協を通してだけでなく、『周ちゃん広場』での販売もあります(写真2-2-4参照)。しかし、専業農家の場合は一つの農作物を大量に栽培するので、出荷してもなかなか捌(は)けません。例えば、20kgから30kg出荷して売れ残ってしまった場合、農作物を農家が直接受け取りに行かなければならないのですが、その時間がないので、私はカキなどでも『周ちゃん広場』には出荷しません。1日100ケースを目標として作業を続けていますが、2個ずつのパックを100ケース10kg作ろうと思ったら、大変な手間がかかってしまいます。
 また、市場に出荷する場合は、自ら西濃運輸に持って行き、運搬をお願いしています。それは、『取りに来てくれ。』と依頼した場合、出荷準備が終わっていない状態のときにトラックが来るということが多いことと、自分から持ち込んだ場合は支出を抑えることができるからです。名鉄運輸が西条市にあったころには、専属で高知県まで運搬してくれていて良かったのですが、営業をやめてしまったこともあって、西濃運輸にお願いするようになったのです。」

(2)各作物の栽培状況と取組
 
 ア キウイフルーツ

 「キウイフルーツは、パック詰めなどをする必要がないので、カキほどの手間はかからず、すぐに出荷できます(図表2-2-5参照)。『ゼスプリゴールド』などは、味も生産量も本当に良かったのですが、2年前(平成26年〔2014年〕)に『かいよう病』が出たときには本当に困りました。このおかげで出荷されるキウイフルーツの数が減少して単価が高騰してしまい、『ゼスプリゴールド』だけでなく、『ヘイワード(グリーンキウイのこと)』もその影響を受けてしまいました。現在、立て直しを図っているところです。」

 イ シイタケ

 「私は、何を栽培したらいいかということを常に考え続けています。それは農閑期であっても同じことです。カキだけの栽培では生活をすることができず、倒産してしまいます。以前、『シイタケで100万円くらいの収入を得よう。』と考え、山の木を伐(き)ってきて、原木栽培という方法(天然の木を用いて木材腐朽(ふきゅう)菌のキノコ類を栽培する方法)でシイタケ栽培を始めました。しかし、春や秋にどんどん育つのでカキの収穫時期と重なってしまい、シイタケを収穫する間がありませんでした。シイタケというのは、太りだしたらあっという間に大きくなるので、早めに収穫して、『周ちゃん広場』に出荷していました。他の農家の方々は、大きなナイロンにシイタケを入れていましたが、私の場合はシイタケの裏側が見えるように工夫して、200g入りパックにして出荷したと思います。このときは、かなりの売り上げがあったことを憶えています。『他のものを栽培するよりシイタケを栽培する方が楽だ。』と思って続けていたのですが、ある時、シイタケを食べようと猿がやって来るようになりました。そこで、シイタケを守るために無加温のハウス栽培に切り替え、ハウス内を暗所にするために遮光シートを導入したら、来なくなりました。」

 ウ 小松菜

 「小松菜も、1反(約10a)くらいの土地でハウス栽培をして、うまく育てれば、1万束くらい採れますが、1束30円ならば30万円にしかなりません。そこで、他の農家が出荷しない4月から5月ころに出荷をすれば1束100円を切らないくらいにはなるのですが、その代わり栽培技術が難しいのです。水の量を間違えて多く与え過ぎてしまったり、日に当て過ぎたりすると、翌日にはもう枯れてしまいます。それでもうまく育て、価格が100円であれば私たちの日当になりますが、労働力不足で今は栽培していません。」

 エ キュウリ

 「私が育てた作物の中で、一番バクチだと思うのは、キュウリです(図表2-2-6参照)。キュウリは、普通5kgが300円の単価であっても、台風などの自然災害が起これば日によってあっという間に単価が2,000円くらいに跳ね上がってしまいます。昨年(平成27年〔2015年〕)のことですが、台風の影響で不良品(きれいでない作物)しかできなかったので、『今日は叩(たた)かれてしまって、売れないだろう。』と言いながら、それらを80箱分出荷して販売したのですが、なんと1箱2,500円で売れたのでびっくりしてしまいました。結局、その日1日で20万円の売り上げがありましたが、そんなことがあるので、農業はやめられません。もちろん売り方もあるとは思いますが、『ここの農園の作物は大丈夫だ。』という信用があれば、大きな業者が全部買ってくれます。
 以前は全て農協に出荷していた時期もありますが、自分で出荷も販売もしたらいいという考えに変わってきました。カキはすでにそのようにしていたので、今は自分自身でキュウリも出荷や販売を行うようにしています。その場合、自分で選果をしなければならないので大変ですが、収入がすべてこちらに入ってくるのでやりがいがあります。
 他の農家がまだキュウリを植えない4月20日ころ、農地8a(約800m²)分のキュウリを植えて、5月にもまた同じくらい植えます。私は市場に良いキュウリが出荷されているというイメージが欲しいと常に願っています。悪い商品はすぐに叩かれてしまいます。『この園地のキュウリはいつも新鮮で、きれいだ。そしてたくさんある。』と言ってもらえれば信用につながります。これは難しいことですが、そう言ってもらえるよう、努力を続けているのです。仕事に追われて、体が休まるということが本当にありません。」

(3)農業の現状と課題

 「温州ミカンの価格が暴落したとき、農家の多くが農地を手放していきましたし、高齢であったことも農地を放棄する原因となりました。そうすると、今度は土地の価格が下がってきたので、私はいくつかの土地を購入して自分の農地としました。現在は耕作放棄地が多くなってしまっています。大郷でも、昔は大規模経営を行う農家が多かったのですが、そのような農家はほとんどなくなってしまいました。やはり、農作物の価格が下落してしまったこと、カキなどを人々が昔のように食べなくなってしまったことが大きいです。
 私が今日まで農業を続けてこられたのは、多角経営をしていたからだと思います。専業農家でも、当たり前に生活をしていこうと思えば、毎日の収入がどうしても必要です。米づくりをしていた私の友人の話ですが、ある時コンバイン(穀物の刈取りや脱穀をあわせ行う機械)が壊れてしまい、新たに購入するのに600万円ほど必要だったので米作りをきっぱりとやめ、キュウリやホウレンソウなど多くの農作物を栽培するようにしたそうです。そして、育てた農作物を『周ちゃん広場』などに毎日のように持って行って販売したところ、以前よりもかなり多くの収入につながったと伺いました。このようなこともあるので、種を順次蒔(ま)いて多くの農作物を育て、販売するということが、今の農業には必要だと思います。
 また、袋の中に200g分の農作物を入れて販売するところを、230g分の農作物を入れて販売をしたこともありますが、お客さんはそういうところをよく見ています。ホウレンソウが20束入りキャリー60箱分くらい採れたときのことですが、『一晩でこんなに持って来てどうした。』と販売部長の方が驚かれたことがあります。その時、その方が私に、『少し袋に多く入れて出荷していることは業者の方も知っていますよ。』と教えてくれました。やはり、良心的な荷造りをしていればお客さんが信用してくれますし、つながりができれば売り上げも増えていくのです。
 ただ農業というものは、よほど段取り良くしないと、すぐに赤字になってしまいます。私ももう歳をとったので、『農業はようやらん(もうできない)。』と本当は思っています。しかし、続けられているのは、農作業の要領と手の抜きどころを知っているからです。ですから、『退職したのでキュウリ栽培でもやってみよう。』と言って相談に来られる方もいらっしゃいますが、初めて農業をして月200万円ほども儲かるということは絶対にありませんし、60万円以上儲かると思ってもいけません。園地の条件にもよりますし、キュウリ栽培はバクチですから、たくさん採れる時は10a(約1,000m²)で200万円くらい儲けることもありますし、一方では50万円くらいにしかならないこともあります。農家で儲けるには、農業を長く続けてちょっとした技術とコツを身に付ける必要があるので、私は、道を歩いていてキュウリ畑のそばを通っただけで、この畑ではどれくらいの量のキュウリが採れるかということが畑全体を見なくても分かります。
 カキ栽培には本当に手間がかかり、農家の高齢化もあって、高い木に登って摘果したり収穫したりすることが難しくなっているので、カキを栽培する農家自体が減ってしまっているというのが現状です。カキ農園を営む私の友人の中には、あまり手間をかけずに吊(つる)し柿だけを収穫する人も増えてきていて、生産量や売り上げを増やすことよりも、現状維持ができれば良しとしなければならないのではないかと思います。
 また、丹原町のカキ園では、『太天(たいてん)』という大きなカキを栽培していますが、これも専従で、常にカキの木のそばに付いていなければいけません。やはり、カキ栽培には人も手間もかかってしまうのです(写真2-2-5参照)。
 さらに、鳥獣による被害も多く、私のカキ園では甘柿の木が20本ありますが、やって来た猿にカキを全部食べられてしまいます。猿は、渋のないことをよく知っているのです。渋柿についても、渋が抜けた時期に食べに来ます。キュウリも同様で、猿が30匹も来れば、1日で60kgから100kg分くらいは食べられてしまいますし、小さなキュウリはそのまま食べ、大きなキュウリは皮を剥(は)いで中身だけ食べていきます。こうした被害を防ぐためには撃退用の資材を購入しなければならないので、当然支出も増えていきます。そのようなことがあるので、『地価が安いのでカキ畑でも買おう。』という人たちが、『国道11号から下(北側)じゃないと、それより上(南側)ではいけない。』と皆が口を揃えて言っているほどです。
 猿の被害が、この4、5年で本当に増えました。もともと、この猿たちは高縄山脈の方にいたのですが、営林署(現森林管理署。平成11年〔1999年〕の林野庁の組織改編に伴い営林署が改組)が植林したために餌(えさ)が無くなってしまい、こちらの方に移って来たと考えられています。サルだけでなく、シカやイノシシもこちらの方に移ってきています。食料がこちらに多くあることを知っているからでしょう。外に置いてあるシイタケも全て食べてしまうので、現在は本当にカキ栽培も含め、農業をすること自体が難しく、もうやれないという寸前にまでなっています。
 私の農園では、現在3人で農作業をしていますが、収穫の時期には多くの人を雇用して農作業を続けていますし、昔のように近所の人も手伝いに来てくれています。しかし、農業というのは本当に難しいもので、人と変わったことをしないと自分自身食べていくことができません。これから農業をしたいという人には、何を栽培すればよいかをよく考え、一つの作物に固執することなくさまざまな農作物を栽培し、そして自分自身で販売ルートを開拓してほしいと思います。」


<参考引用文献>
①愛媛県『愛媛県史 社会経済1 農林水産』 1986

<その他の参考文献>
・愛媛県『愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)』 1988
・愛媛農林統計協会『小松町の農業』 1989
・小松町『小松町誌』 1992

写真2-2-4 周ちゃん広場

写真2-2-4 周ちゃん広場

西条市。平成28年11月撮影

図表2-2-5 キウイフルーツの栽培面積と収穫量(愛媛県)

図表2-2-5 キウイフルーツの栽培面積と収穫量(愛媛県)

『愛媛農林水産統計年表』から作成。

図表2-2-6 キュウリの作付面積と収穫量

図表2-2-6 キュウリの作付面積と収穫量

『小松町の農林業』から作成。

写真2-2-5 太天柿

写真2-2-5 太天柿

西条市。平成28年11月撮影