データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

遍路のこころ(平成14年度)

(2)遍路の宿と人々の交流⑧

 イ 現在の遍路が泊まる宿

 (ア)アンケートからみた遍路が泊まる宿の実態

 ここでいう遍路が泊まる宿とは、遍路だけが泊まる宿ではなく、民宿・旅館・ホテル・ビジネスホテル・ユースホステルなど、現在の遍路が宿泊する広範囲の宿を指す。
 愛媛県内の遍路の宿の実態を把握するため、遍路道が通る県内の関係市町村教育委員会から遍路の宿を選定してもらうとともに、最近の遍路記などから遍路がよく宿泊する宿を抽出し、アンケート調査を行った。その結果、南予地域では27軒中19軒、中予地域では23軒中14軒、東予地域では16軒中10軒の計66軒中、回収率65%にあたる43軒の宿から回答を得た。これらのアンケートの結果から現在の遍路の宿の実態を探ってみた。
 宿の種類(図表1-2-22)では、「旅館」と「民宿」を合わせると80%近くを占める。かつての木賃(きちん)宿は、現在では民宿が最も近い存在と思われる。近年の遍路は裕福になったとはいえ、豪華なホテルや旅館を利用するのは少ない。宿の種類の「その他」は、市や町営センターや国民宿舎などの公共の宿や保養所、ユースホステルなどである。
 宿の開始時期(図表1-2-23)では、「昭和期終戦後」が63%(27軒)が圧倒的で、次いで「平成期」、「明治期」の順となる。戦後、世の中が落ち着きを取り戻し、遍路が復活し始めた昭和30年以降の開始が多い。また、「江戸期」の開始は無いが、「明治期」は4軒ある。なお、その4軒の宿(御荘町平城1、津島町岩松1、松山市浄瑠璃町1、同道後1)は現在も営業を続けている。
 また、宿を始める契機として、「先代から引き継いだ」、「母がやっていて後を継いだ」、「両親が旅館をしていた」、「母が商人宿をしていた」など親などから引き継いだというものが多い。また、「四国観光の中心はこれしかない」、「料理屋だけでは経営が行き詰まると思った」など、将来を見据えて開業したのもある。さらに、「札所が近い」、「歩き遍路が多くなり、近くに宿が必要」など、札所が近いという立地条件に恵まれた所も多い。また「お遍路さんのお役に立ちたい」、「自分が八十八ヶ所参りを数回しているのでお遍路さんの気持ちがよく分かる」など、遍路の要望にそって宿を始めたという人が多く見受けられる。
 宿泊料(図表1-2-24)は、1泊2食の場合、最高は11,000円(松山市)、最低は4,000円(内子町)と大差がある。「6,000円台」が53%(23軒)と最も多く、「5,000円台」が17%(7軒)、「7,000円台」が12%(5軒)などの順となり、1軒平均6,416円で一般のホテルや旅館の宿泊料に比べれば安価である。また素泊りの場合、最高は税込みで8,235円(今治市)、最低は2,500円(内子町)とこれまた大差がある。「3,000円台」から「4,000円台」に86%(37軒)と集中し、1軒平均4,075円と一般の宿に比べて割安といえよう。遍路の出立は早く、朝食をとらない遍路も多い。
 アンケートを実施した宿で、「遍路以外の客を宿泊させている」のが93%(40軒)と圧倒的に多く、春のシーズンに集中する遍路だけでは、経営が成り立たないことが分かる。
 ここでは、宿の1日の宿泊定員(図表1-2-25)を尋ねた。「50人以上」の大規模の宿は21%(9軒)で、20人前後の中規模の宿が最も多い。1日の宿泊定員の最高は150人(松山市)で、その大部分が遍路である。一方、「10人未満」の小規模の宿は10%に満たない。また、宿泊する遍路の巡拝方法は、「徒歩」が1位、「自家用車」が2位、3位以降は「団体バス」「マイクロバス」「自転車・単車」の順となっている。
 遍路の年間宿泊人数(図表1-2-26)は、「200人以上」の44%(19軒)が最も多く、「100~200人未満」が23%(10軒)と続く。最も宿泊客の多い宿は、松山市にある民宿・旅館の看板を掲げる老舗の宿で、年間約25,000人にもなり大型ホテルなみである。アンケートを実施した43軒の年間の宿泊人数は、1軒平均840人、1か月平均70人、1日平均2.3人という結果が出た。
 さらに、遍路の宿泊の多い月は、「3月」、「4月」、「5月」の春のシーズンに集中し、次いで「9月」、「10月」と多いが、秋は春ほどのにぎわいはない。今回のアンケートでは、「12月」、「1月」、「2月」の冬期は皆無で数字に表れなかった。

図表1-2-22 宿の種類

図表1-2-22 宿の種類


図表1-2-23 宿の開始時期

図表1-2-23 宿の開始時期


図表1-2-24 宿泊料

図表1-2-24 宿泊料

(左)1泊2食、(右)素泊り。

図表1-2-25 1日の宿泊定員

図表1-2-25 1日の宿泊定員


図表1-2-26 年間の宿泊人数

図表1-2-26 年間の宿泊人数