データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

遍路のこころ(平成14年度)

(1)遍路道を歩く

 ア 「トレッキング・ザ・空海」柏坂ウォークラリー

 前述した柏坂の復元された遍路道において、平成2年4月29日に津島町「四国のみちウォーク大会」が実施され71名が参加した。コースは津島町上畑地の三島(大門)~茶堂~つわな奥展望台~接待松~柳水大師~内海村役場までの9.8kmであり、遍路道でいえば逆打ちのコースであった。内海村柏の「柏を育てる会」は自分たちのイベントをということで、平成6年「柏を育てる会」と「柏自治会」によって遍路道ウォーク大会を初開催した。コースは、内海村の施設「DE・あ・い・21」から接待松~つわな奥展望台~津島町上畑地までの順打ちの9.8kmである。
 平成10年、新生内海50周年記念事業「トレッキング・ザ・空海」ウォークラリーが開催され、津島町の「ウォーク大会」もこの行事に吸収された。その後、毎年春のイベントとして定着してきており、平成14年のイベントには360名が参加した。その運営の中心拠点になっているのが内海村の地域づくり活動の交流施設「DE・あ・い・21」である。そこに勤めている**さん(昭和18年生まれ)に話を聞いた。
 「『トレッキング・ザ・空海』という行事を立ち上げたのは、内海村50周年の平成10年でした。その時に50周年にふさわしいイベントを何か考えようということで、村の各団体に呼びかけ、この行事を立ち上げました。柏坂のイベントは『柏を育てる会』が平成6年にすでに実施していたので、比較的皆さんに理解してもらえました。
 このイベントを実施することの目的の第1は、地域の皆さんに、お接待の心とか、仲間作り、健康への関心、地域づくりの触れ合いを深めるといった、ある意味では『遍路の心』を持ってもらいたいということです。第2は、柏坂の旧遍路道を今まで以上に大切に保存していこうという意識付けの意味がありました。正直言って、柏坂を整備し始めた人たちが、高齢化してきており、こうして始めたイベントをいかにして次の世代へつなげていくかということです。立ち上げたのはいいけれど、地域の良さがなくなることのないように皆さんに呼び掛けていかねばならないと思っています。第3は、この地域を多くの人に知ってもらいたいということです。子供から大人まで参加できるイベントを実施することで、様々な人たちにこの地域に関心を持ってもらいたいと思っています。
 このイベントに100人あまりの地元の人たちがスタッフとして協力してくれています。皆さんと共にさらに研究して、参加された方々にもっと喜んでもらえるようなイベントにしていきたいと思います。」

 イ ヘんろ道を歩こう会

 松山市では、「へんろ道を歩こう会」代表**さん(昭和6年生まれ)のイベントが30年にもわたって実施されている。このイベントは毎年春と秋の2回、春分の日・秋分の日のすぐ後の日曜日に実施されている。近年の参加者は、松山市内や松山近郊の方がほとんどであるが、大洲市や今治市からの参加者も合わせると200人ほどになっている。コースは、四十六番浄瑠璃寺から五十一番石手寺に至る約11kmの道のりである。
 **さんにイベントを始めた思いを聞いた。
 「私は、空海が好きで、空海になれたらと思っています。なれるとは思いませんが少しでも近づけたらいいと思っています。出身地の中島にもお大師講というのがあり、子供のころ母に連れられてよく行ったものです。そこへ行くと銀飯が食べられるのです。それが弘法大師を身近なものにしたのですかね。
 『へんろ道を歩こう会』というイベントを実施しようと思ったのは、遍路道を歩いてみると、郷土に目覚める、ふるさとに目覚める、地域がよく分かる、そして感動があるということで、その感動を皆さんに知ってもらいたい、味わってもらいたいと思い、歩くことによって皆さんが内なる幸せを得ることができればと思ったからでした。昭和45年(1970年)ごろから始めましたから、約30年になろうかと思います。
 長年やってきていますがお天気の悪い日はありませんでした。お大師様のお陰だと思っています。民宿旅館『長珍屋』さんの協力で、おにぎりを作っていただいて、お弁当としてお接待しています。最後に石手寺でいもがゆをお接待いただき解散します。今、空海とかかわりのあった中国のお寺に、青年空海の銅像を建てさせてもらっています。平成14年までに開封市相国寺、福州市開元寺、蘇州市寒山寺、揚州市大明寺、洛陽市白馬寺、杭州市霊隠寺の6か所に皆さんの浄財で建立できました。大陸での遍路ができ、日中友好ができ、四国遍路の心が海外にも理解されればと思っています。」
 「へんろ道を歩こう会」が30年も続いてきた要因には多くの人々の支えがあった。世話役の中心として長年「へんろ道を歩こう会」を支えてきた**さん(昭和13年生まれ)は、四国霊場会の大先達でもあり、ボランティアとして老人ホームなどで札所めぐりができない人のために「ボランティアお砂踏み」を実施しており、また、歩けない人のために車椅子でも「お砂踏み」が出来るように工夫している。**さんに話を聞いた。
 「私は、三津の生まれですが、昭和45年(1970年)ごろ『へんろ道を歩こう会』を手伝ってくれないかと誘われました。若いときにお遍路に出てみないかと誘われ興味を持つようになり、また、35年前に父親を亡くし、その供養をかねて何度もお四国を回りました。30年間もお手伝いできたのは、やらなければならないなどと思ってしたからではありません。『空(くう)の世界』ですね。自然に、ただお寺をお参りする、その気持ちだけで始めたので、今になって30年も経ったのかなと思うだけです。
 このようなことで年に2回、このお手伝いをしてきました。このお世話をしてきて、様々な人と知り合いになることができました。この出会いが私には大きな財産であると思います。『へんろ道歩こう会』は、遍路道を歩くことを目的にしていますが、ただ歩くだけでは意味がありません。せっかくお寺を巡拝しているのですから、お寺さんとの付き合いを大切にしてほしいと思います。それは、仏様を大切にするということです。私が30年間も皆さんのお世話ができたのも仏様のお陰、『空の世界』があったからだと思います。」

 ウ カルチャースクール

 愛媛新聞社では、歩き遍路体験を希望する人々のために、平成14年度の事業としてカルチャースク-ル特別講座「歩き遍路入門」を開講、春と秋に2回実施した。この事業は愛媛新聞社としては、初めての試みであるが、カルチャー事業拡大の中から様々なジャンルに興味のある方へのお手伝いの意味と、現代の遍路ブームとを勘案してこの講座を開設した。このカルチャースクールは、あくまでも歩き遍路の初心者入門コースであり、心構え、身支度、札所での作法、巡拝の立案などの講義を受け、その後に石手寺~宝厳寺~蓮華寺~太山寺の約12kmの歩き遍路体験をするものである。講師は「へんろみち保存協力会」世話役代表**さんである。
 平成14年10月12日第2回カルチャースクール特別講座「歩き遍路入門」講義が行われた。講義にあたって**講師は札所巡りと遍路について、「遍路道は、危険を承知で、不便、非能率、不快に耐えて歩くそのプロセスが大切で、苦労して歩くことが遍路である。」と語り、遍路に出かける時期、遍路の身支度、札所礼拝・読経の作法、歩行距離と所要時間・速度の関係などの講義を行った。
 平成14年10月20日、実地体験が実施された(写真3-1-16)。参加者は講師から出発前の心構えを聞き、午前10時に石手寺を出発、石手寺裏の遍路道から伊佐爾波(いさにわ)神社を経て太山寺までの約12kmを歩き、14時30分に太山寺に到着した。
 広島県呉市から参加の**さん(昭和35年生まれ)に話を聞いた。
 「私は、以前定時制高校に勤めていました。卒業生を送り出したとき、卒業生の将来のことや、自分とのかかわりなどを考えると、無性に悲しくなったことがありました。そして、他の高校に転勤が決まったときにその虚しさが一層強くなり、自分を見つめ直す機会を探していました。以前から四国遍路に興味がありましたので、休みを利用して、自転車での四国遍路の旅に出るようになりました。いつも自転車なのでいつか歩いてみたいと思っていました。たまたま、カルチャースクールの記事を目にし、参加しました。
 いつも自転車で回っているので、今日のように歩いて回ると周りの景色がゆっくり見れますし、道端に咲いている花とか、今まで気付かなかった遍路石などを見つけることができ、とてもよかったと思います。今日は雨の中を歩きましたが、私は雨が好きです。なぜかと申しますと、雨上がりの太陽のありがたさが倍増します。毎日の生活の中で、当たり前のことの大切さに気付くことがなくなってしまいました。今日、こうして歩いていると、当たり前のことにすごく感謝できる気持ちになります。自転車で回っていますと一日中誰とも話さないことがあり、札所についてお参りに来られている方にちょっと声を掛けられるだけでありかたいと思うことがあります。今日のカルチャースクールは色々な作法などを教えていただき参考になりました。」
 参加者の松山市の**さん(昭和20年生まれ)は、「私は、このような遍路のイベントにはじめて参加しました。今日歩いたのは12km足らずですが、四国を歩いて回ることの大変さを少しですが実感できました。信仰心とかに関係なく、四国を歩いて一周するということは本当に人間の修行になると思います。私も定年前ですので時期をみて歩いてみたいと思っています。皆さんと一緒に歩いていて、今日は、今まで生きてきた自分をもう一度見直すのにいい機会だと思いました。最近歩き遍路の方を多く見掛けるようになりました。皆さんが歩いておられるのを見て、自分も何か得るものがあるのではないかと思い参加しました。」と語った。

 工 「お遍路さんウォーキング」~空海の軌跡を訪ねて~

 「クワハウス今治」は健康で生きがいあふれる「健康福祉都市」づくりのため、三世代が楽しく交流しながら健康づくりを行うための各種事業を実施してきた。その一環としてクワハウス今治主催の「お遍路さんウォーキング」のイベントが今年(平成14年)から始められた。今年の実施は平成14年6月16日であった。場所は仙遊寺への2コースの内、普通コースが約2km、健脚コースが約3.5kmであった。
 今までの健康ウォーキングは、お花見ウォーキング・森林浴ウォーキング・味覚狩りウォーキング・紅葉狩りウォーキング・しまなみウォーキングなどであったが、近くに札所があり、歩き遍路の数も多くなったことから、平成14年度には、古い生活道を見直し、歩いてみようという目的で計画された。好評であり次年度からも継続実施の予定である。参加者は112名、最高齢者90歳、参加者の居住地は、主として今治市が中心で、その他東予市、西条市にわたり、県外では、広島市からの参加者もあった。6月の中旬、太陽の照りつける中でのイベントであった。
 県外から唯一参加した広島市の**さん(昭和13年生まれ)夫妻に話を聞いた。
 「私たちは、平成13年にバスでの四国巡拝を終えました。しかし、札所の思い出や、道の記憶があまりにも少ないことに気がつきました。実際、今日歩いた仙遊寺の記憶はほとんどありません。歩いてみて、このような坂道があったのかどうかも思い出せません。中国新聞でこのイベントを知り、歩き体験をしてみようと夫婦で参加しました。今日のウォーキングに参加したことで歩き遍路の経験を少しでもできたので意味があったと思います。わずか1時間余りの歩きでしたが、歩きの大変さが実感できました。暑さで汗びっしょりです。今日参加できて本当によかったと思います。」

 オ 三間町健康ウォーキング

 三間町では、町内に2か所の札所があり「四国のみち」として整備された昭和63年から毎年「四国のみち花のみち健康で歩こう集い」として、三間町ふれあい交流館~四十一番龍光寺~中山池自然公園~三間町基幹集落センター~四十二番仏木寺の「四国のみち花のみちコース」の約7kmを健康づくりのウォーキングとして実施し、平成14年で15回になる。参加者は約200人であるが札所をお参りできることと最近は仏木寺前の県道に植えられているチューリップの開花時期に実施されていることで人気が高い。このイベントに毎年のように参加している三間町の**さん(昭和25年生まれ)に話を聞いた。
 「この集いには、もう7回ほど参加しています。私が成妙(なるたえ)小学校社会体育のミニバスケットのお世話をしていますので、その子供たちを中心に1年生と6年生までの子供たち20名ほどで参加しています。最近の子供たちは、異世代や学年間の交流がなくなっているので、少しでも早く学校に慣れ親しんでもらいたいという思いがありました。お遍路さんも多く歩かれている道ですし、近くに龍光寺、仏木寺という札所があり、何か得るものがあるのではと思って参加しています。ちょうどチューリップの開花時期で、このチューリップは上級生か丹精をこめて植えていること、地域の人たちの努力があること、お遍路さんの心の癒しになることなどを話しながら歩いています。
 遍路道の美しい花を見ることによって、子供たちは育ち、何か学ぶものがあるのではないでしょうか。歩き遍路の人たちが何百キロも歩いてこられて、あの花を見てホッとする心を皆さん感じられるのではないでしょうか。それで子供たちと一緒に歩くときに次のようなことを約束しています。『遍路さんに会えば必ずあいさつしよう。』、『あきカンなどのごみがあれば必ず拾いましょう。』、『上級生が下級生の世話をしよう。』、このような約束をして歩いています。札所がこの小さな町に2か所もあり、それを取り入れたコースを歩くわけですから、もっともっと札所や遍路さんへの理解を深めたいと思っています。子供たちも歩くことによって何かを感じてくれるのではないでしょうか。お遍路さんが返してくれるあいさつから逆に私たちは元気とか何かをいただくような気がします。」

写真3-1-16 カルチャースクールの実地体験

写真3-1-16 カルチャースクールの実地体験

松山市常光寺町。平成14年10月撮影