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えひめ、その食とくらし(平成15年度)

(1)郷土料理の創作

 昭和49年(1974年)12月、食生活改善を中心とした地区活動を通して健康作りを進めるため、愛媛県保健栄養推進連絡協議会が設立され、各地の保健所を拠点に14支部が結成された。平成9年(1997年)には、地域保健法の改正に伴い、食生活改善の取り組みは、市町村が主体となって実施することになった。
 平成15年現在、県内には63の支部があり、市町村の保健センターなどと連携しながら、“私達(わたしたち)の健康は私達の手で”をスローガンとして、食生活改善を中心に地域に密着した健康作りボランティア活動に取り組んでいる。その活動は、県から委託された健康作り我が家の食卓コンクール(年ごとのテーマに沿った生活習慣病予防料理を会員から募集し、審査・表彰する事業)や子どもの健康食生活普及推進事業(各支部の食生活改善推進協議会の会員が、小中学校や公民館で地域の親子と調理実習や健康生活への話し合いを行う事業)、生活習慣病予防のための食生活改善運動、郷土料理の保存・伝承や創作活動、高齢者福祉のための介護食の普及など多岐にわたっている。

 ア 新居浜市食生活改善推進協議会の取り組み

 昭和49年(1974年)会員160名で発足した新居浜地区保健栄養推進協議会は、平成9年(1997年)地域保健法の改正を機に、保健栄養推進協議会・婦人会・PTA・一般の人が参加する新居浜市食生活改善推進協議会へと再編された。現在市内に40支部があり会員数は約1,000名、男性だけの支部も3か所あるという。
 新居浜市食生活改善推進協議会は、市と協力しながら食生活の改善にとどまらず、環境にやさしい生活のあり方、まち美化の運動、介護食を中心とした福祉への取り組みなど多様なボランティア活動を進めている。特に食生活改善については、各支部長が毎月1回市保健センターに集まり、管理栄養士から生活習慣病予防に関する専門的な講習を受けるとともに、食生活改善推進員の協力を得て、その月の献立を作成し、料理の作り方を学んでいる。この講習会で、きちんとした知識を習得した会員は、さらに各支部で伝達講習会を開いている。旬(しゅん)の食材を生かした郷土料理に力を入れるとともに、地元でとれる食材を使って健康作りのための新しい郷土料理を考案して、その普及に努めているという。
 同会の活動について、県の会長も務めている**さん(新居浜市中村松木 昭和10年生まれ)に話を聞いた。
 「私たちの活動は、『健康日本21』や『健康実現えひめ2010』、『元気プラン新居浜21』などの施策に基づいた健康作りボランティア活動です。日本では現在、急速な高齢化の進展に伴って、がん、心疾患、糖尿病などの生活習慣病の割合が増加するとともに、要介護状態になる人も増え、深刻な社会問題となっています。そこで、新居浜市食生活改善推進協議会では、年8回テーマをしぼって、骨粗鬆(こつそしょう)症・糖尿病・高血圧・心臓病・貧血などの予防のための食事作りに取り組んでいます。旬の食材を使った郷土料理を紹介するとともに、白味噌(みそ)の中にスキムミルクを入れたり、だし汁を牛乳で溶いたり、ぬたの中にチーズを入れたりして、カルシウム不足解消の工夫をしています。
 私たちは、会ができた当初から健康料理や郷土料理の普及活動に力を注いできました。毎年10月に開催している生き生き幸せフェスティバルが、現在の形になったのは平成6年(1994年)からですが、私たちの会では、昭和50年(1975年)から市内のデパートやスーパーのフロアを借りて、健康食や郷土料理の展示・実演を続けてきました。今年(平成15年)も、会員みんなで100品の料理を作り、実物展示と実演をする予定です。パネル展示だけでなく、実物を見てもらった方が、作ってみようという気になる人が増えるのではと考えています。一人でも多くの人に見てもらって、実践していただければと思います。」
 平成15年7月には、かけがえのない自然を見つめなおし、くらしとのつながりを考えようという目的で開催された「水と光と風の博覧会」に参加し、郷土料理や健康作り料理を10品展示するとともに、各料理のレシピ(料理の材料や調理法を記したもの)や由来を説明したパンフレットを配布した。さらに、「キッチンからのメッセージ」と題して、環境にやさしいキッチン・リサイクル、エコ・クッキング、食品の保存も“昔流”アイデアしだいなど、テーマごとにまとめたパネル展示なども行った。この時展示していたのは、腹を開いて塩洗いし甘酢に浸したサゴシ(小さなサワラ)にすし飯をつめたサワラの姿ずしや、味付けしたうの花(おから)を酢漬けした小アジやコノシロで包んだいずみやなどの新居浜の郷土料理と、スキムミルク入りえび天、イワシのくるくる巻き揚げ、アジの野菜あんかけ、揚げサンマの香味づけなどの地元食材を生かした健康によい新しい郷土料理であった。実演販売していた野菜たっぷり鯖(さば)カレーは、来場者に好評で、用意していた300食がすぐに売り切れたという。
 平成15年10月に開催された「第9回新居浜市社会福祉大会・生き生き幸せフェスティバル」では、『元気プラン新居浜21ってなあに?~知って、まず実践~』というテーマのもと、「日本食は健康食(郷土料理にひと工夫)」、「生活習慣病に勝つ」、「子どもたちに伝えたい食文化」、「みんなで守ろうきれいな環境」などのコーナーが設けられ、郷土料理いずみやの実演試食コーナーが設置された。押しずし、いずみや、バタゴ(ニシン科の海魚。瀬戸内海沿岸でママカリともいう。)の酢漬け、トリカイ(バカガイ)のぬたなど10品が並べられた郷土料理のコーナーでは、熱心にメモをとる来場者が多数みられた。また、「生活習慣病に勝つ」のコーナーでは、高脂血症予防食メニュー、骨粗鬆症予防食メニューなどがパネルで紹介されるとともに、実物展示が行われた。「子どもたちに伝えたい食文化」のコーナーでは、おやつと夜食を考える、私の手作りお弁当、カップラーメンそんなに食べて大丈夫などのパネル展示と栄養バランスを考えたおやつやお弁当などが実物展示された。展示室の外で行われたいずみやの実演試食には、人だかりができ、コノシロを3枚におろしていずみやができる様子を興味深そうに見入っていた。
 また同会では、このような健康作り料理の創作普及活動の一環として、3年に1冊のペースで、郷土料理や郷土の食材を使った生活習慣病予防食を紹介した本『食生活のいずみ 献立集』を出版している。栄養バランスを考え、手軽にできる料理が100品紹介されているので、問い合わせが絶えないという。
 30年にわたってこういった活動を続けてきた**さんに、郷土料理への思いを聞いた。
 「昨年、郷土料理についてのテレビ取材があり、その際にいずみやを200個作り市民に食べてもらいましたが、若い人は『これがいずみやですか。初めて見ました。』という人がほとんどでした。『おいしい、おいしい。』といって食べてはくれますが、若い人はほとんど知りません。作るのに時間と手間がかかり、味の素朴な郷土料理は、今の若い人の食感に合わなくなってきているのではないかと思います。子どもたちの舌も肥えていますし、手間をかけなくてもいろんな食品が身の回りにあふれていますから。また、各家庭でも子どもの好きな食べ物が優先され、家族一人ひとり違うものを食べていることもあると聞きます。先人が作り守ってきた新居浜の食文化が壊れてきているような気がします。
 ただ、昔のままの味をそのままにというのも大切ですが、若い人が見向きもしないのでは、食べてもらえません。若い人が食べてみようかと振り向くような郷土料理を、中身を少しずつ変えながら、地元の食文化として残していきたいと思っています。できれば、市民こぞって郷土料理を食べる『郷土料理に親しむ日』ができればと願っています。
 昔の人が、地元で取れる旬(しゅん)の食材を使って、工夫を重ねて出来上がった郷土料理を、私たちの食文化として絶やすことなく次なる世代へと伝承していきたいと思っています。」

 イ 松山市食生活改善推進協議会の取り組み

 昭和49年(1974年)191名の会員で設立された、松山市、北条市、温泉郡重信町、温泉郡川内(かわうち)町などを含む松山地区保健栄養推進協議会は、平成9年(1997年)に松山市食生活改善推進協議会に再編され、現在1,100名余りの会員で運営されている。
 松山市では、平成13年(2001年)3月に松山市ヘルスプロモーションプラン「健康ぞなもし松山」を策定し、食の環境整備事業を推進している。その一環として、平成14年8月、ヘルシーメニュー協力店普及促進事業推進会が設置され、9月から協力店の登録窓口が開設された。これはライフスタイルの変化などにより外食(がいしょく)・中食(なかしょく)を利用する人が日常化している現在、市民一人ひとりが自らの健康管理を進めるため、食に関するさまざまな情報を提供することを目的としたものである。市内の外食・中食の店を対象に、栄養成分表示(エネルギーや脂質、食塩量などを料理ごとに表示する。)やたっぷり・ひかえめメニューの提供(野菜・カルシウム・鉄分たっぷりとエネルギー・脂肪・塩分ひかえめをメニューに表示する。)、ヘルシーオーダーの提供(量の調節、調味料の選択、味噌や漬物の選択、食べやすい工夫などを依頼できる。)、たばこ対策、バリアフリー対策などの協力を依頼し、協力に応じた店を登録して、それを市民に知らせていこうとする取り組みである。
 アンケート調査の実施やレストラン、飲食店、弁当・総菜店、宿泊施設などの訪問を通して、登録店の推進に協力している松山市食生活改善推進協議会会長の**さん(松山市西石井 昭和8年生まれ)に話を聞いた。
 「この取り組みは松山市全域で進めていかなければ効果がないので、食生活改善推進員も支部ごとに飲食店を回って協力を呼びかけています。店に入った時に、塩分やカルシウム量などの表示があれば、病気の人も自分の病状に合わせてメニューを選べるので、安心して食べることができます。私たちは、すべての人が自分の健康状態にあわせて、安心して外食を楽しむことができるように頑張っています。平成15年10月現在、協力店が100店になりました。このような協力店登録制度の活用や保健所を中心とした食生活改善の運動の中で、市民の間に健康に対する関心が高まっていけば、市民が自分の体調を考えながら、より適切な食事をとることができると思います。ですから、登録店の数を増やすとともに、食と健康についての私たちの考え方を市民にアピールしていかなければと考えています。」
 松山市食生活推進協議会は、食を通じた健康作りを進めるとともに、郷土料理の伝承・創作活動にも取り組んでいる。松山地方の郷土料理を今一度見直し、地場産品を積極的に活用するために、平成13年1月に発行した『伝えたい味新しい味 松山の味』には、郷土料理のカラー写真とその材料、作り方、一人分の栄養量が紹介されている。行事や食材の旬に応じて、四季ごとに分類された、伝えたい味34品、市内各地の特産品を使った新しい郷土料理17品、正岡子規没100年にちなんだ明治の文豪食卓編などが掲載されている。この本について、**さんに話を聞いた。
 「この本は、私たちが毎月実施してきた各地区での講習会等で作っている家庭料理をまとめたものです。市内33地区の支部長さんに、地区ごとの自慢料理を出してもらって作りました。ですから、郷土料理もありますし、新たな郷土料理にしたい創作的な料理もあります。わたしたち食生活改善推進員がこれまで取り組んできたことや松山地方に伝えられてきた郷土料理を、次の世代の人にぜひ伝えたいという思いで作った本です。
 明治初期から受け継がれてきた、この地方の特産品松山揚げを海苔(のり)の代わりに使って作るのが、松山揚げずしです。私たちが若いころは、冷蔵庫がなかったので、乾燥して腐らない松山揚げは家庭に常備されていました。刻んで、味噌(みそ)汁に入れたり、煮物や炊き込みご飯に入れたりして使っていました。こういった昔からの郷土料理とともに、市内の各地域で取れる特産物を使った新しい料理も支部ごとに出し合いました。伊台(いだい)地区でとれるモモを使った白身魚のももドレッシングやイヨカンの皮とダイズから作るいよかん豆腐、ささがきにしたツイモ(茎イモ・ハスイモともいう。)の茎と頭・内臓・ぜいご(アジの体側にあるとげに似た鱗(うろこ))を除いて細切りした小アジを和(あ)えた、せごしとツイモの酢物などは、低カロリーでカルシウムを多く含む食材を使い、健康作りを考えながらつくった今風(いまふう)の郷土料理です。一人でも多くの人にこの本を手にしてもらって、ここに載せている料理を作ってほしいと思います。」
 このような活動を続けている**さんに、郷土料理にかける思いを聞いた。
 「郷土料理はどれも、地域で取れる新鮮な産物を使って作られ、祖母から母へ、母から娘へ、娘から孫へと伝えられてきたものです。それを次の世代の人へ伝えていくのが私たちの義務だと思っています。残念ながら今、郷土料理は忘れられつつあると思います。若い人はそんな手間のかかるものを作らなくても、スーパーに行けば売られているじゃないかと言いますが、親子で一緒に作る、お母さんの手作りの料理を子どもが喜んで食べるといったことが大切ではないかと思います。
 私たちが子どものころには、祖母や母が、ひな祭りにはしょうゆ餅、端午(たんご)の節句にはかしわ餅、花見のころにはりんまん、七夕(たなばた)のころには七夕団子(だんご)(とりつけ団子)などを作ってくれたのを覚えています。昔は今のように粉が売られているわけではなかったので、米を粉にするところから始めました。まず、米を洗って乾燥させ、家にあった石臼(うす)で挽(ひ)いて粉にします。その時に、石臼を支えながら祖母からいろいろな話を聞きました。もちろん食べることが楽しみでしたが、手伝いすることも楽しみの一つで、わくわくしながらその時期が来るのを待っていたことを覚えています。こういった四季折々の行事やその時出される食事の中に、親子の触れ合いや郷土料理の伝承といった要素があったと思います。
 今の若い人は、核家族で親と一緒にいないから難しいと思いますし、第一、私たちの世代もあまり作らなくなっています。私たちの世代が作らないから、子どもにも伝わっていかなくなっているのではと思います。四季や旬(しゅん)のものを大切にして伝えられてきた郷土料理を私たちの代で絶やすことのないようにと願って、会員のみんなと一生懸命取り組んでいます。」

 ウ 宇和島市食生活改善推進協議会の取り組み

 昭和49年(1974年)9月設立された宇和島(うわじま)市と北宇和(きたうわ)郡吉田(よしだ)町に支部を置く宇和島地方保健栄養推進協議会は、現在宇和島市生活改善推進協議会に改編され、約330人の会員で構成されている。市内11の支部から選出された理事が、毎月1回、市の栄養士から貧血や生活習慣病予防のための献立などについて指導を受ける中央研修に参加し、その学習成果を公民館ごとに実施される栄養教室で会員に伝達している。公民館で学んだ会員は、自宅周辺の人々にその料理を広める活動に取り組んでいる。
 このような食を通じた健康作りの活動とともに、宇和島市食生活改善推進協議会は郷土料理の創作・普及活動にも積極的に取り組んでいる。昭和54年(1979年)に始まった「ふるさとの味研究会」は、平成15年2月で25回目を迎えたという。もともと、食生活改善推進協議会の栄養教室での学習成果を発表するための催しであったが、昭和62年(1987年)からは市民も参加できる現在の方式になり、チケットを購入した300人~350人の市民が、大皿に盛られたふくめんや丸ずしなどの郷土料理や骨ごとすりつぶした小魚とささがきにしたニンジン・ゴボウにバターを加え、揚げた骨(ほね)コツコツつまみ揚げやタイの刺身と千切りしたキュウリ・ニンジン・レタスに砕いたナッツを加え、ごまドレッシングで和(あ)えたたいサラダなどの新しい郷土料理に舌鼓(したつづみ)をうっている。平成15年2月の「ふるさとの味研究会」には、市民ら300人が集まり、会員70人が2日がかりで準備した14種類の新旧の郷土料理を味わったという。
 この取り組みに宇和島市が協賛して、平成2年(1990年)から開催されるようになった催しが「ふるさとの味まつり」である。毎年2月に行われる宇和島市産業まつりの際に、事前にはがきで申し込み、抽選で選ばれた600人に郷土料理を味わってもらおうという催しであった。この催しについて、同会会長の**さん(宇和島市住吉町 昭和4年生まれ)に話を聞いた。
 「600人分という量なので、準備が大変でした。たいめんを作るにしても、畳一畳半くらいの大きな器を作って300人分を盛り付け、これを2セット用意します。20匹ものタイをまとめて大釜で煮て、味付けをしていました。でも、食べ始めるとあっという間に骨だけになっていました。ただ並べるだけでは、面白くないので、丸ずしをお城の石垣に見立てて、宇和島城の形に並べ、周囲の田園風景を海の幸や山の幸でかたどったこともありました。また、牛鬼(うしおに)(南予(なによ)地域の祭りの際に、神輿(みこし)の先駆けとして悪魔払いをする牛の形をした練り物)の絵を下絵にして料理を盛り付けたこともありました。ほんとうにしんどい作業でしたが、作りがいがあって楽しかったという思い出があります。10年間よく続いたものだと思います。」
 この催しは、平成11年(1999年)まで続いたが、平成12年からは市内の料飲組合加盟店が郷土料理と店自慢の味を持ち寄り出展する形式に変わったという。
 こういった活動とは別に、**さんが住んでいる住吉地区の公民館を中心とした「ふるさとの味地域交流会」と名付けられた活動も、平成6年(1994年)から現在まで続けられている。これは、毎年5月住吉地区の新たな役員を一堂に集め、郷土料理を楽しみながら親睦(しんぼく)を深めるものである。自治会長や愛護班、老人会や交通安全の会などの役員や小中学校の教員など約100人が集まり、住吉地区食生活改善推進協議会の会員が作った料理を食べながら、その年の活動について話し合う。回を重ねるごとに、一般の若い人の参加希望も増え、役員だけでなく地域の人々の楽しみになっている。今年のメニューは、たいめん、ふくめん、たいサラダ、骨コツコツつまみ揚げ、さつま、盛り合わせなどであり、好評であったという。
 **さんは、大人への郷土料理の普及・伝承活動とともに、子どもたちにより望ましい食習慣を身に付けてもらうことを願って、幼稚園や小学校などでの普及活動も行っている。幼稚園の子どもとその母親たちと一緒に、郷土料理を作り、食べる時には、ご飯、主菜、副菜、汁物などの配膳(はいぜん)形式について指導しているという。このことについて**さんは、「昔から伝わってきた食べる時の礼儀とか配膳形式を身に付けることができれば、日常の家庭での食事のときに何が足りないということが分かってくるようになると思います。主食があって副食があるという食卓作りをしていけば、栄養をバランスよく摂取することができ、健康作りに役立つと思います。ですから、かなりうるさく言っています。」と語る。
 また、同会では、栄養教室で創作した郷土料理や調理方法などの研究成果を、『ふる里の味』という冊子に取りまとめて発行してきた。平成8年版には、24種類の郷土料理をはじめ地元の食材を使った魚・野菜料理や、健康作りのために牛乳やレバーを使った料理など100種類余りのレシピが紹介されている。家庭の主婦が毎日の献立を考える際に役立つ、栄養バランスを考慮した、地元の食材を使った料理が紹介されているので、今でも冊子を求める問い合わせがあるという。
 このような郷土料理の創作・普及活動についての思いを**さんに聞いた。
 「郷土料理はただきれいとか、懐かしいとかだけではなく、昔の人の生活の知恵が詰まったものだと思います。さつま一つをとってみても、忙しい農作業の合間に簡便に必要な栄養を補給できるようになっています。手近にあった小魚やいりこと味噌(みそ)を材料に作ることで、カルシウムやダイズのたんぱく質などの栄養をまとめてとることができます。
 また、この地域の祭りの時などに作られる郷土料理には、客をもてなす心が込められていると思います。親戚(しんせき)や通りすがりの人にも『まぁ、あがんなはいや。』、『みんなといっしょに飲みなはいや。』と声をかけて、にぎやかな宴(うたげ)が催されますが、その時に食べる人の喜ぶ姿を思い浮かべながら料理を作っていく、そこにもてなしの心が詰まっていると思います。郷土料理には、人に懐かしさを思い起こさせる、人を集める力があると思います。
 今の時代は身の回りにいろんな食べ物があふれ、世界中の食材を得ることができます。でも、それを食べることによってわれわれが健康になっているかというとそうでもない。大人はさまざまな病気を抱えていますし、子どもにも生活習慣病が広がっています。今の時代だからこそ、子どもたちやその母親に、食習慣の大切さを教え、伝統の味を伝えることが必要だと考えて取り組んでいます。
 郷土料理の食材には、特定の地域で決まった時期にとれる、もっともおいしい新鮮な材料が使われています。昔の人が、それを上手に使って作り上げてきたのが郷土料理だと思います。ですから、私たちも地元で取れた旬(しゅん)の食材を使って、忙しい中で簡単にできて、栄養バランスがよく、おいしい料理を創作しています。若い人にも家庭で作ってもらって、みんなで食べてもらわないと意味がないと考えています。いろんな機会を活用して、新旧の郷土料理を広め、地元の食材を地元で消費することができれば、農業や漁業などの産業もより活性化するのではと思います。」