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えひめ、その食とくらし(平成15年度)

(2)旬の食材を楽しむ

 西条市は、県の東部に位置し、加茂川が平野部の中央を南北に流れている。江戸時代には松平氏の陣屋町として栄えた。昭和になって工業にも力を入れ、遠浅海岸を埋め立てるとともに、豊富な地下水を利用した企業誘致(工場誘致)を推進した。農業では穀物のほかにホウレンソウやハウスによるマッシュルームの生産も盛んである。遠浅の海岸でかつてはアサリ・トリカイ(バカガイ)・マテガイなどの貝類やクルマエビ・シャコなどがよくとれ、ノリの養殖も盛んであった。

 ア 水の都西条

 加茂川は山間部流域の土砂を流し出して西条平野を形成し、また市民の生活を支えてきた。川底は砂礫質(されきしつ)のため水を透しやすく、武丈(ぶじょう)あたりから地下に浸透し、伏流水(地上から一時地下に潜入して流れる水)となって平野部のいたるところで自噴する。「うちぬき(自噴井(せい))」の水温は四季を通して12~13℃で冬は温かく、夏は清涼さを感じさせる。
 この「うちぬき」は、昭和60年(1985年)に環境庁によって「名水百選」(全国各地の湧水や河川の中から100か所を選定したもの)に選ばれた(⑧)(写真3-1-9参照)。
 クッキングスクールを開設している料理研究家の**さん(西条市喜多川(きたがわ) 昭和11年生まれ)に、西条のくらしや郷土料理、名水などについて聞いた。
 「私は高校1年生まで伊予三島市で過ごし、その後西条市に移り住みました。祖母の実家が西条市にあり、小学生のころよく連れて行ってもらいましたが、西条駅に降り立つと、東町の向こうの西条北中学校のあたりはずっとレンコン畑が広がっていました。レンコンは良い物は出荷され、製品にならないものは、家庭ですしやからしれんこん、煮物などに使用されました。海岸部は、現在の産業道路の下まで遠浅の海が広がり、潮干狩りに行くとアサリ・ハマグリ・トリカイなどの貝類やエビ(シバエビ)、ガザミがバケツに山盛りとれ、引きずって家まで帰りました。家では母親がアサリはあさり汁に、トリカイは丼(どんぶり)やすき焼き(口絵参照)、煮物などに、他は煮炊きや天ぷら、酢物、和(あ)え物などにしてくれました。
 中学生になっても食料統制が続き、食べ物に不自由したので、口にできる物は何でも食べました。
 昭和30年(1955年)に栄養士の免許を取り、結婚後栄養士として病院勤務しました。しかし、料理教室を始めたい思いに駆られて大阪の料理学校に通い、松山でも勉強を重ねました。
 子どものころの日常の食事は、麦がほとんどのご飯と旬(しゅん)の野菜のおかず、醬油の実、たくあん漬け、梅干し、らっきょう漬けなどでした。おやつは蒸かしいもや焼きいも、ひがしやま(サツマイモを蒸して干したもの)、干したサツマイモにアズキを入れて炊いたかんころのほた煮などをよく食べました。またサトウキビから搾(しぼ)った黒砂糖や配給の砂糖などを瓶に保存し、はったい粉に入れたり、ぽん菓子やげんこつ飴(あめ)などを作ってもらいました。」
 水質が良いことで名高い水については、「西条は加茂川の伏流水に恵まれ、いたるところで自噴するため、戦後になって各家庭がうちぬきを掘りましたが、地形の関係で水の出ないところは水道を使用しました。私はうちぬきの水を使用していますが、湿気が高いため押入れの中にカビが生えたり、布団や衣類をたびたび干さなければならないなどの欠点があります。しかし水をふんだんに使用することができてありがたく思っております。現在は冷蔵庫を使用していますが、かつてはビールなどの飲み物やスイカやトマトなどを冷やしておいしくいただきました。今後ともこの水資源が枯渇(こかつ)することのないように大切にしていきたいと思います。」と語る。

 イ 季節食材の利用

 すしは祝い事や特別の行事の時には、餅や赤飯とともに家庭でよく作られる。雛(ひな)祭りにはちらしずしがつきもので、そのほか箱ずし、巻きずしなど各地に特有のすしが、行事に伴うご馳走として各家庭で受け継がれている(⑨)。
 西条市や周桑郡では冠婚葬祭(かんこんそうさい)など人が多く集まるときのご馳走といえば手作りの押しずしである。山菜や魚介類など季節の食材を活用し、代々受け継がれている方法で作る。
 伊藤静子氏は『愛媛の味紀行』の中で、押しずしは、「箱型に入れて押し出すすしだけに、コツはご飯をふっくら立つように炊き上げることと上盛りの色彩で決まる。もちろんピッタリ合った『合わせ酢』は一番。そぼろの赤、サンショか青豆の緑、甘く煮たシイタケの濃い茶、白い酢じめの魚、金糸卵の黄色と彩りを考え、また奇数の材料を飾る。鮮やかな彩りをセンスよく上盛りした四角い押しずしが行儀よくすし箱に並ぶと、豪華な芸術作品にも見え、(⑩)」と記している。
 郷土料理やお菓子などについて、**さんに聞いた。
 「押しずしは型枠を使いますが、それには松、梅、扇(写真3-1-10参照)、桜、瓢箪(ひょうたん)、丸、角などがあり、季節によって使い分けています。酢飯を詰め、その上にコノシロの酢締め、エビ、シイタケ、金糸卵、紅ショウガなどを彩りよく置き、押し出すと出来上がります。コノシロの生(き)ずしも西条の祭りには欠かせないご馳走です。生ずしは、体長25cmくらいのコノシロを背開きにして塩をたくさんふったあと一日ほど置いておきます。続いて酢に漬けた後瓶(かめ)に貼り付け、冷たい打ち抜き水に浸します。背中に摺(す)ったショウガをたくさん入れ、酢飯をつめて作ります。母方の祖父の大好物でした。
 酢海苔(のり)は素材を活かした料理ですが、11月末から2月にかけてよく作ります。生海苔は魚屋で買ったり、いただいたものを使用しています。だいだい酢、醬油、砂糖で味付けし、ウズラ卵やネギ、ユズを少しのせワサビをきかせると、おいしく体にも非常に良い料理です。
 また加茂川ではアユがたくさんとれるので、あゆ飯や塩焼き、天ぷら、せごし(骨のまま小さく切り、酢に浸したもの)を作ったり、焼いて保存し、祭りや正月などの料理に使用しました。祭りにはこのアユを番茶で炊き、水飴(みずあめ)と醬油で味付けした煮びたしを作り、正月には甘露煮を作りました。
 西条の山里(加茂・大保木・市之川地区など)では、ジャガイモやカボチャにダイコン葉、ネギ、油揚げなどを加え、いりこだしで味噌汁のように炊き、石臼(いしうす)で挽(ひ)いたトウモロコシの粉をほうり込んで炊くおねりが作られました。お客さんのあるときには、この中に鶏肉やイノシシの肉を入れてご馳走としました。
 お菓子のゆべしはユズに砂糖を入れてよく煮た中に、米粉と味噌を入れて加熱し固めたものです。ユズはさまざまな料理に使用され、花の時を花ユ、実の小さい時を実ユズ、実の直径が1cm位の時を青ユ、10月から11月になり黄色くなった時を黄ユズと言います。花ユや実ユズは吸い物などに浮かし、青ユは輪切りにして使い、黄ユズはダイズやゴボウ、ニンジンなどの煮物に皮を使用します。ユズは2月下旬ころまでで、その後はイヨカンやダイダイの皮を用いてゆねり(柚錬り)や料理を作っています。
 テレビや冷蔵庫などの電化製品の出現が大きく食生活を変えました。新しい料理も作りますが、やはり郷土料理が一番で料理の原点であると思います。今後とも大切にして作っていきたいです。」

 ウ 西条祭りの支度と料理

 秋の西条祭り(だんじり祭り)は、西条市民が一年中で最も待ちわびる行事である。
 「平生は質素にして、祭りのときには派手に張り込んで贅沢(ぜいたく)に食べたり、飲んだりするのが西条祭りよ。」と、西条の古老は目を細めて祭りをそう称(たた)える。
 祭りの2、3日前には餅を搗(つ)き、小餅を一杯に並べた重箱を持って、親戚や知人宅へ祭りのご案内をする。また祭りの前日には、禎瑞(ていずい)地区の乙女川(おとめがわ)で川狩がある。コノシロ・ボラ・チヌ・セイゴ・フナなどの魚がとれ、祭りのご馳走となる。この時期になるとコノシロが旬(しゅん)になるので、コノシロの生ずし(写真3-1-11参照)をたくさん作り、もろぶた(むろぶた)に並べておく(⑧)。
 西条祭りは、どじょう祭りといわれるほど、必ずどじょう汁がごちそうの中に入っている。まず、よく泥を吐かせたドジョウを器に入れ、酒をふりかけふたをしておく。次に熱した鍋(なべ)に油を少々入れ、先ほどのドジョウにしょうが汁を加えて強火で炒(いた)める。さらに、だし汁を入れた中にナス、ゴボウ、ニンジン、サトイモ、タマネギ、油揚げを入れて煮る。豆腐を加え、味噌で味付けしてゆっくり煮詰め、仕上げに青ネギを入れる(②③)。どじょう汁は味がよいだけでなく精がつくというので、秋の取り入れに備えて何杯もお代わりし、祭りが終わると体がしゃんとする。走りのマツタケは、汁やすし具に入れる程度である。
 祭りのご馳走について、**さんは、「秋祭りには各家庭で押しずしやコノシロの生ずし、ごもくずし、どじょう汁、魚にマツタケとユズを散らした吸い物、タイやボラの刺身(さしみ)、茹(ゆ)でたガザミ、魚・エビ・レンコン・サツマイモなどの天ぷら、アユの煮びたし、こんにゃく・ゴボウ・ニンジン・レンコン・サトイモの煮しめ、キュウリとエビまたはコノシロの酢物、ホウレンソウとキノコのゆず和(あ)え、レンコンのからし和えや梅肉(ばいにく)和えなど最高の料理を作ります。キュウリに代えてカブを使い、焼きまつたけ・エビ・ギンナン・ユズ・ショウガの千切りなどをゆず酢で味付けした酢物や、赤芽やミズイモの茎を短冊(たんざく)に切り、コノシロやエビ、トリカイなどの魚介類とショウガを加え、ごま酢で和えた和え物も作ります。客は懐石膳(かいせきぜん)(懐石料理に用いる脚のない漆塗りの膳)でもてなし、帰る時にはもろぶたに何杯も作った押しずしを、土産として持たせます。また、西条にはどこにでもきれいな小川があり、昔はドジョウがよく獲れましたのでどじょう汁を作りました。しかし近年はドジョウが少なくなったため、魚屋に注文して取り寄せています。」と語る。

写真3-1-9 名水百選の「うちぬき」

写真3-1-9 名水百選の「うちぬき」

西条市神拝。平成15年11月撮影

写真3-1-10 押しずし(松・梅・扇の形)

写真3-1-10 押しずし(松・梅・扇の形)

西条市神拝。平成15年12月撮影

写真3-1-11 コノシロの生ずし

写真3-1-11 コノシロの生ずし

西条市神拝。平成15年11月撮影