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えひめ、その食とくらし(平成15年度)

(1)肱川の恵み

 肱川は、宇和町と大洲市にまたがる鳥坂(とさか)峠(標高460m)に源流があり、宇和盆地・野村盆地・大洲盆地を流れ長浜町で伊予灘に注いでいる。川魚漁が盛んで、あゆ漁、カジカ(カジカ科の淡水魚、体長5cm~10cm。水が澄み、底が小石の川に棲む。)漁などが知られている。このほか、大洲地域では、伝統の味として如法寺(ねほうじ)河原などでの“いもたき”が知られているが、すでに平成6年(1994年)度の地域文化調査報告書『昭和を生きぬいた人々が語る 河川流域の生活文化(⑤)』に詳細な記述があることから、今回の調査では割愛することとした。

 ア 川魚漁と食

 肱川で長年川魚漁をしてきた**さん(大洲市東大洲 昭和7年生まれ)に肱川での川魚漁について聞いた。
 「私が川で魚をとり始めたのは太平洋戦争中でした。あそこにB29(米軍爆撃機)が飛びよるぞ、などと言いながら魚をとったものでした。場所は五郎(ごろう)橋から八幡(はちまん)神社下の鉄橋の間が多かったです。
 カジカ漁は、3月下旬から5月の初めぐらいまでが多く、大小の四つ手の網を用意してとりに行きました。サザエの殻にひもを通して川の中で引っ張ってカジカを網に追い込んでとっていました。
 4月ころからは、夜になってから漁によく行きました。ガス灯をたいて、そこに集まってくる魚をとります。ウナギやコイもずいぶんとりました。鳥首(とりくび)(河口から約30km)の大川橋ぐらいまで行っていました。舟で、父親と兄と3人で行きました。昼過ぎに家を出て、暗くなったら夕食の弁当を食べて、漁を終えて家に帰るのは朝の3時や4時ごろでした。父親の川魚漁を見て、私も見よう見まねで覚えていきました。私が成人して自分で漁をし始めると、料理屋などからウナギ・カニ・アユ・コイなどの注文が入るようになりました。
 夏は河口部の長浜から上ってくるスズキをよくとりました。大洲城の下あたりの川で一度に100匹以上とったことがあります。スズキは鳥首ぐらいまで上っていきます。すずき漁は、受け網を下流の瀬のところに張って、上流から追い込みますから5、6人のグループで行っていました。大きいものは5kg、6kgのものがいました。戦中・戦後の食糧難の時代には貴重な食料になっていました。大洲城の近くに砂防堤が出来るまでは、よく舟で行き来していました。」
 『日本大百科全書』によると、スズキは元来海産魚で、内湾や沿岸の瀬のある岩場や小石の多い所に好んですむが、成長の度合いや季節によって生息場所を変え、若魚時代は内湾で生活し、また川にも遡上(そじょう)する。味は淡泊で、夏にはうまみがのる。刺身、あらい、塩焼き、椀(わん)だねなどにするが、特に酢味噌で食べるあらいは夏の味覚の代表の一つだ(③)とある。
 さらに**さんは、「6月ころになると、あゆ漁とうなぎ延縄(はえなわ)漁のシーズンになります。延縄はウナギやイダをとるために夜仕掛けて、夜の9時か10時ころに見回ってえさのミミズがあるかどうか確かめました。 
 ウナギをとるための“じんどう”を仕掛けるのは6月から8月でした。じんどうには竹で編んだ筒型の竹じんどうと箱型のじんどうがあり、どちらも自分で作っていました。じんどうに入れるえさはミミズ、アユなどでした。朝早く上げに行って、ウナギが入っていると重みですぐ分かりました。
 アユは投網や張り網でとりに行きました。秋になると落ちアユをとるために“やな”(写真3-3-5参照)を作っておきます。また寒くなる11月終わりから12月には、清水(しみず)よりといって温かい水が湧いているところにアユが集まっていることがあります。そこを探して網を入れていました。一度に4、5kgとることが出来ました。
 秋のもう一つの楽しみはかに漁でした。定置網で5か所の権利を持っていました。カニは網の両端に杭(くい)を打って網を張ってとっていました。川の両端に杭を打たなくてはなりませんから、この杭を打つのが大変でした。後になって網の両端に錨(いかり)をつけて張る方法を考えつきました。杭を打つ手間がいりませんから大分楽になりました。このあたりでは私が最初だったと思います。
 瀬に網を張り、アユをとったり、大きな四つ手の網を天秤のように舟から出してアユをとる漁法もありました。雨が降りそうなときにはじんどうを仕掛けても、延縄やかに網を仕掛けてもよくとれました。」と話す。

 イ 川魚の料理

 **さん(大洲市新町 昭和20年生まれ)は、子どものころから家業の旅館の板場で父親が料理するさまざまな川魚料理を見てきた。現在は大洲のさまざまな郷土料理を守り、次の世代へ伝えるために努力している。その**さんに肱川の川魚料理について聞いた。
 「私は、小学生のときから親父の手伝いをしていたので、昭和30年(1955年)ころにはもう板場の手伝いをしていました。
 肱川といえばあゆ料理ですが、お客商売ですからアユをおいしく食べてもらうことを第一にしています。アユなら何でもいいというわけではありません。アユは、昼間えさとなるコケを食べるときに砂も一緒に口に入れていることが多いのですが、お腹に溜(た)まった砂は夜には吐き出してしまいます。ですから夜中から朝早くにとれたアユを使うと砂をかむことはなく、頭から全ておいしく食べられます。あめ煮・塩焼き(口絵参照)・雑炊・塩辛(しおから)など、どんなあゆ料理にでも使うことが出来ます。
 塩辛は、アユの味を残したままの塩加減に苦労します。アユのあめ煮はお祭りや正月の料理で、くん製にして保存したものを番茶で戻して使っていました。アユのくん製をお土産にもらっても、その戻し方が分からないので食べることが出来なかったという話をよく聞きます。アユは、このほかにもいも煮のだしにしたり、あゆさつまなどにも使いました。
 カジカも朝どりと昼どりがあり、昼とったカジカは砂をかんでよくありません。私は朝どりのカジカしか使いません。朝の太陽が昇るまでの時間帯にとったのがおいしいと思います。
 カジカがおいしいのは、4月~5月ころで、フジの花が咲くころは卵を持っているので特においしいと思います。串に3匹から4匹をさして炭火で焼いて、すぼ(ほて)に刺して乾燥させて保存していました。卵はり、かき揚げ、照り焼き(写真3-3-6参照)などがカジカの料理法です。
 かに料理については、モクズガニ(写真3-3-7参照)を熱湯の中に入れると足がばらばらにとれてしまいます。姿、形を残すには水からゆがくのが基本です。かに飯、かに雑炊にするときは足をはずしてから炊きます。卵を持っているメスのカニでないと、ご飯が山吹色には染まりません。小さいカニはから揚げにも出来ます。生きたカニを料理するときは挟まれないように注意することが大切です。甲羅(こうら)を持って料理すれば挟まれることはありません。
 コイは汽水(きすい)域(海水と淡水が交じり合った水域)でとれたのがおいしいといいます。池のコイはどぶ臭くて食べるのには向きません。コイの料理は、あらい、こいこく(味噌汁)などですが、こいこくはうろこも食べられるように時間をかけて炊きますから、料理には半日くらいかかります。
 ウナギはさばき方に慣れないと、家庭では大変だと思います。以前は新聞紙でつかんで動きをとめていたこともありましたが、現在は氷水につけています。そうするとしばらく動かなくなります。おいしく食べられるかどうかは、たれの良し悪しで決まると思います。
 私たちは魚の胆のうを“にが玉”と呼んでいますが、魚を料理するときこれをつぶしてしまうと苦い汁(胆汁)が身にしみてしまうので気をつけなければなりません。
 肱川の魚をおいしく食べてもらえるように、今後も創意工夫を重ねていきたいと思います。」
 肱川で育ち、肱川で遊び、肱川での川魚漁とともに生きてきた**さんに家庭での川魚料理について聞いた。
 「ありとあらゆる川魚料理を作りました。かに飯は、卵を持っているメスのカニの足をとってから甲羅をたわしでよく洗って、ご飯と一緒に炊くと本当にいい山吹色が出ておいしく食べられます。一種の炊き込みご飯です。結婚したころ、家内はカニの卵がどの部分か分からなくて、腹の中を全部捨てて炊いたこともありました。これでは、かに飯にはなりません。
 カジカはよく洗ってフライパンに油をさして、カラカラになるぐらいに焼いて食べていました。砂糖醤油(しょうゆ)をかければもっとおいしいです。1回焼いて乾燥したものを使用すると、生臭くなくて雑炊にしてもおいしかったです。
 アユは、すぐ食べるというよりは、くん製にしていました。まず大きなたらいの内側をブリキで囲って砂で満たして、たらいの中央で炭をおこしてその周りに串に刺したアユを並べます。次に円錐状のブリキのふたをして、その中心に空気抜きの穴をあけてくん製にしていました。1回に70匹から80匹を焼いていましたから、結構炭代がかかりました。姿形よく串に刺したものは料亭で喜ばれました。ですから串に刺すときにも形良くするのに苦労しました。先に腹を焼いてその後背中を焼きますが、1回焼くのに約1時間半かかりました。大漁のときには一日に何回も焼かなくてはならないので、夜も眠られませんでした。出来上がったくん製はわらで作ったすぼに刺してから保存しました。
 あゆさつまもよく作っていました。あゆさつまには生のアユより、くん製にしたものを使うとおいしかったです。」

写真3-3-5 落ちアユをとるための梁(やな)

写真3-3-5 落ちアユをとるための梁(やな)

大洲市五郎。平成15年11月撮影

写真3-3-6 カジカの照り焼き

写真3-3-6 カジカの照り焼き

大洲市若宮。平成15年11月撮影

写真3-3-7 モクズガニのオスとメス

写真3-3-7 モクズガニのオスとメス

上がオス、下がメス 大洲市若宮。平成15年11月撮影