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えひめ、その装いとくらし(平成16年度)

3 裂織りを訪ねて

 裂織(さきお)りとは、貧しいくらしの中で育(はぐく)まれた手仕事で、経糸(たていと)に丈夫な木綿糸や麻糸を用い、緯糸(よこいと)には使われなくなった古布を1cm幅ほどのひも状に裂いて織った素朴な織物(口絵参照)である。古くなったきものなど再生織物であるが、かつては農作業の仕事着や漁師の防寒用半纏、雨具などに使用された。
 八田尚子氏は、『裂織の本』の中で、「一枚の布を長く使いつづけるための生活の知恵があった。古着を細く裂いて織り、まったく新しい衣料素材として再生させる『裂織』である。裂いた布をヨコ糸がわりにして織り上げるので肌にはなじまないが、分厚く丈夫なので、風を通しにくく、あたたかい。多少の風雨ならしのげもする。また、古木綿をぎゅうと圧縮して織るというかたちの織物なので、織り手の工夫次第で、もとの古布の色や柄からは想像できないほどの意外な模様もあらわれる。」と述べ、また、「縞柄から小紋のような柄があらわれたり、派手な大柄の模様から、絣を思わせる模様が織りだされることもある。しかし、裂織はしょせんは、傷んだ衣類を繕ったり、つぎ当てする延長で作られた木綿の再利用の織物である。高度な織りの技法が必要とされるわけでもありません。衣料素材の乏しい生活から生まれた、このリサイクルの織物は、時代の波にのみこまれるようにすたれていきました。(⑩)」と記している。
 愛媛県歴史文化博物館資料『佐田岬(さだみさき)半島の仕事着(裂織り)』には、「裂織りで作られた衣服は、とても丈夫で暖かく、水にも強い特性があることから、農・山・漁村の仕事着として使用された。」とあり、また「四国地方ではその存在は未確認とされていたが、近年、四国の西端に位置する愛媛県の佐田岬半島で、裂織りの仕事着が使用されていたことが確認できた。(⑪)」とある。
 佐田岬半島は県西部に位置し、八幡浜(やわたはま)市から西に約40km細長く突き出して、北の伊予灘と南の宇和海を隔てる細長い半島である。急傾斜の山が連なり、平地は少なく、海岸沿いに半農半漁の小集落が散在している。陸上交通整備が遅れたため、人々は長年にわたり陸の孤島的な生活を余儀なくされた。