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えひめ、その装いとくらし(平成16年度)

(2)愛媛の装い~地域文化調査報告書から~

 ここでは、愛媛県生涯学習センターが発刊した過去の地域文化調査報告書で取り上げている織物や装いに関する記述について紹介したい。

 ア 睦月の縞売り

 《平成3年度『瀬戸内海の島々の生活文化』》
 「第3章 島の人々の生活文化史 第3節 商人の生活史 2 日本全土を歩いた睦月の行商人(中島町)」が収録されている。
 「睦月の縞売り」と呼ばれた反物行商の島として、全国に知られていた温泉(おんせん)郡中島(なかじま)町睦月(むつき)(現松山市睦月)に焦点を当てて、その風土と行商が発展した背景、また、戦前から戦後に至る行商の盛衰の模様などをまとめた。さらに、大正から昭和初期にかけての行商の全盛期について、4人の方々からうかがった貴重な話をまとめている。また、現在においても睦月出身者が衣料品販売に携わっている長崎県対馬と睦月行商とのかかわりにも言及している。

 イ 南予の繊維産業

 《平成4年度『宇和海と生活文化』》
 「第1部 昭和を生き抜いた人々のくらし 第2章 交通の発達とくらし 第2節 海を通した文化交流 2 先人の西瀬戸経済圏」、同じく「第3節 八幡浜-南予の玄関としての伝統 3 繊維産業の伝統を受け継いで」、「第4章 地域に尽くした人々とくらし 第1節 歴史と地域をリードした人々 2 南予綿業と地方自治に尽くした酒井宗太郎」が収録されている。
 「先人の西瀬戸経済圏」では、特産の「狩浜縞(かりはまじま)」を、宮崎県や高知県を中心に売り歩いた東宇和(ひがしうわ)郡明浜(あけはま)町狩浜(現西予市)の行商の様子が記録されている。特に、明治末期と戦前の行商の様子が、具体的に記されている。
 「繊維産業の伝統を受け継いで」では、現在、八幡浜市で南予(愛媛県南部)において唯一大規模に繊維産業(縫製業)を営む会社の経営の変遷を通して、宇和海の繊維産業の伝統に言及している。交通不便地という悪条件を「人は力、技術は力」という信念で乗り越えてきた過程に言及している。
 「南予綿業と地方自治に尽くした酒井宗太郎」では、大正期から昭和期前半にかけて、八幡浜地域を中心とする綿織物業と町村合併など地方自治の発展のために全力を尽くした酒井宗太郎の多様で豊かな人間性と実行力、人生の道程を紹介している。それとともに、江戸時代末期における八幡浜地域の綿織物業の起こりから昭和期前半の全盛期にいたる経緯が詳細に記されている(図表補-3参照)。

 ウ 伊予生糸

 《平成6年度『河川流域の生活文化』》
 「第2章 川が育む 第2節 川と伝統産業 2 伊予生糸(いよいと)作りに生きる」が収録されている。
 肱川の豊かな流れを背景に、明治時代以降、大洲市や東宇和郡野村(のむら)町(現西予市)などで、養蚕と製糸業が一体となって発展し、近代日本の基幹産業の一つとして経済発展を支えてきた「伊予生糸」や「野村シルク」について言及している。また、戦前・戦後、「お蚕さん」第一で励んできた養蚕農家の暮らしや座繰製糸一筋の伝統的な糸作りの苦労をまとめている(図表補-4参照)。

 エ 「西洋手拭い」は今

 《平成7年度『臨海都市圏の生活文化』》
 「第2章 海に伸びる 第2節 地場産業を支える人々 2 『西洋手拭い』は今」が収録されている。
 今治市を舞台に、戦前から戦中、戦後にかけてタオル一筋に歩んできた人々のタオルにかけた情熱と意気込みを紹介している。また、革新織機の開発などタオル産地の発達を支えてきた取り組みについても言及している(図表補-5参照)。

 オ 装いをつくる

 《平成9年度『愛媛の技と匠』》
 「第2章 受け継がれる匠の技 第3節 つやと色合いの技 2 染めの味わい」が収録されている。
 かつてはわが国の三大絣の一つとして隆盛を誇った伊予絣と、宇和海を臨む明浜町で機(はた)織られた狩浜木綿について、その創製から盛衰をたどるとともに、今まで活躍してきた匠(たくみ)たちの技と生きざま、絣の世界に伝統の再生と新しい価値を生み出すべく挑戦する人々の取り組みを紹介している。
 また、「第3章 まちかどの職人芸 第1節 くらしを支える技 1 装いをつくる」では、小学校のとき授業で裁縫を学び、和裁とともに昭和を生きてきた松山市在住の3人の女性の話、昭和10年からあつらえの紳士服を作るテーラーを目指して修行し、戦後、北宇和郡日吉(ひよし)村(現鬼北(きほく)町)で開業した男性の話、喜多郡五十崎(いかざき)町(現内子町)にある現在県内唯一の桐下駄専門の製造所で働く親子二世代にわたる下駄職人の苦労話、昭和29年から革靴づくりや修繕に取り組んできた温泉郡重信(しげのぶ)町(現東温(とうおん)市)の靴職人の目から見た世相の移り変わりなどがまとめられている。

 以上のア~オの項目については、記述が重複するのを避けるため、本書では取り扱っていない。興味を抱かれた方は、過去の報告書をひもといていただきたい。

図表補-3 八幡浜地域の綿織物生産高表

図表補-3 八幡浜地域の綿織物生産高表

『八幡浜織物史資料(①)』より作成。

図表補-4 愛媛県の戦後養蚕業の推移

図表補-4 愛媛県の戦後養蚕業の推移

『えひめの蚕糸(②)』『愛媛県蚕糸業統計書(③)』より作成。

図表補-5 今治地域のタオル生産量の推移

図表補-5 今治地域のタオル生産量の推移

昭和45年から54年は検査量より推計、他は綿糸使用量より算出。『愛媛県染織試験場記念誌(④)』および四国タオル工業組合提供資料により作成。