（１）木造校舎あれこれ①

　ア　山裾の緑に映える小学校

　伊予(いよ)市立翠(みどり)小学校は、国道378号から上灘(かみなだ)川に沿って3.5kmほど分け入ったところにあり、東・南・北の三方を山に囲まれ、わずかな水田と山裾(すそ)に広がる段畑の中にたたずんでいる。自然豊かで、静かな山間にある赤屋根の小学校は、周りの緑に映えて輝いている。
　翠小学校の歴史は古く、開校は明治７年（1874年）にさかのぼるが、昭和６年（1931年）に新築落成した現在の校舎もすでに築後74年を経過し、県下で最も古い木造校舎となっている。
　伊予市双海(ふたみ)町上灘地区の＊＊さん（昭和３年生まれ）と＊＊さん（昭和２年生まれ）に翠小学校での生活や思い出などについて聞いた。
　「われわれは、昭和８年（1933年）と10年に入学しました。校舎は昭和６年に建てられたばかりで真新しく光っていました。木造２階建てで、東向きに建築されています（写真3-20参照）。これは、この地区が海からのほっちょ風（西風）がすごく強くて、冬には子どもが凍えて校庭で遊ばないので、東向きに建てて風を防ぎ、東面を運動場にしたのです。風の強いときには歩いている人が飛ばされて、上灘川に落ちたこともあったそうです。２、３年生のときだったと思いますが、冬の風の強い寒い日に大きなどんぶりにいも粥(がゆ)を炊いてくれましたが、すごくおいしかったのを今でも忘れることができません。
　中央に張り出した玄関を入ると、１階は職員室、低学年の教室となっていました。また、その前には幅が３ｍ以上もある広い廊下が通っており、約40ｍの長さがあります（写真3-21参照）。これは雨天の日でも体操をすることができるようにと造られたそうです。ここでは乾布摩擦(かんぷまさつ)もよくやりました。廊下は１枚の板の長さが５ｍほどある丈夫なベイマツが敷きつめられていましたが、滑るのがおもしろくて蠟(ろう)を塗って遊んだりもしました。廊下の端には約２ｍの間隔に立派な杉材の柱が立ち並び、屋根を支えています。
　２階に通じる階段は校舎の左右両側にあり、手すりは銅板で覆われていました。新しい校舎のため嬉しくて、何度も階段を走り上がったり下りたりし、また手すりは滑り台代わりによく遊びました。
　玄関の上には校長室があり、児童の運動場での授業や活動の様子が一望できるようになっています。室内は三方に窓があって明るく、その窓は上下開閉式になっていて、以前は紐(ひも)で引っ張って開け閉めしていました。天井にはシャンデリアが吊るされています。校長室と廊下を隔てた斜め前には家庭科室があり、畳敷きで二教室分ほどの広さがあります。裁縫の授業などとともにＰＴＡの研修会や地域の人々の集会などにもずっと使用してきました。
　家庭科室の左右は高学年教室（５・６年生教室）となっていました。北側の階段の左側の校舎はＬ字型になっていて、１階は理科室、１年生教室、便所、講堂が並び、２階は図書室と４年生の教室でした。
　玄関前の左側には二宮金次郎の銅像がありますが、戦前にあったものが戦時中に供出撤去され、戦後になって再び立てられました。右側には土俵があり、当時小学校に土俵があるのはめずらしかったのではないかと思います。
　在学中の校長先生は几帳面な先生で、掃除に厳しく掃除校長といわれていました。朝と放課後の２度掃除を行い、掃除終了の報告をしないと下校できませんでした。９年間もの長い間校長を務めたそうです。
　現在、講堂は図画・工作室、家庭調理室、給食準備室に変わり、新しく体育館と音楽室、プールなどが建設されていますが、他の建物は昭和６年（1931年）の建築当時のままです。プールの建設は遅くて昭和47年（1972年）に完成しました。それまでは上灘川の流れをせき止めて水を溜(た)め、プール代わりにしていました（昭和41年河川プールが設置される。）が、水温が低くて子どもはあまり泳がなかったようです。プール建設が遅れたのは、双海町は海が近く、『天然プールがあるから。』というのが理由だったと聞いています。しかし本校は海から離れているため、双海町内の小学校では最初に建設されました。
　昭和６年の建築から74年経過し、校舎も古くなってきていますが、地域の者にとって本校は大きな誇りです。建物や内部の補修などもいろいろ行っていますが、材質が良く、まだまだしっかりしています。木造校舎特有の夏は涼しく、冬は温かい上に、廊下や土間なども広くてゆったりしているため、子どもたちは落ち着いて勉強をすることができます。
　児童数が大幅に減少していますが、地域の学校として今後ともこのまま継続していってほしいと願っています。」