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えひめ、子どもたちの生活誌(平成18年度)

(2)活動の場を提供して-あそびじゅく・トムソーヤ-

 子どもたちにとって身近で気軽に利用できる公共の施設があり、そこに豊かな経験を有する大人が加われば活動の幅がぐっと広がり、家庭や学校では得られない経験を積むこともできる。新居浜(にいはま)市の西端にあり、西条(さいじょう)市に隣接する大生院(おおじょういん)地区では、地元の公民館を活動拠点としてボランティア団体「あそびじゅく・トムソーヤ」が平成9年4月に設立され、地域の子どもたちに様々な体験的、文化的な活動に触れる場が提供されている。この団体の設立者であり、子どもたちのために多彩な活動に取り組まれている**さん(昭和17年生まれ)に、設立の経緯や活動の様子を聞いた。

 ア 子どもたちとのかかわり

 「私は満州(まんしゅう)で生まれ、父は私の幼いころに戦死しましたので、父についての記憶がほとんどありません。すでに成人した2人の子どもの父親になったときに『親父とは何だろうか。』と考え始めるようになりました。私は子どもを育てていくには、人の集まるところにどんどん連れて行って、一緒に活動させていくことが大切だと思っていましたから、子どもが参加する活動に積極的にかかわろうと考えたのです。そういうわけで、我が子が小学生のときは大生院地区の愛護班活動(*4)の長として、また中学生のときはPTAの役員として、子どもたちの活動にかかわるようになったのです。そして、地元の大生院剣道会の指導も引き受け、気が付いてみるとかれこれ25年以上も子どもたちの活動にかかわるようになっていたのです。
 トムソーヤを立ち上げるまでは剣道会の指導者をやっていましたが、平成8年(1996年)に体調を崩し、残念ながら新居浜市の大会でも優勝した実績のある剣道会を閉じることにしました。しかし、当時15人ほどの子どもたちが剣道会に通ってきていて、その子たちの今後の活動のことや、私としてもそれまで培ってきた子どもたちとの活動のノウハウをいかせないものかと悩みました。同じころ、大生院地区のスポーツ少年団のソフトボールチームが指導者不足のため解散されることが重なり、地区内で子どもたちの活動できる場が狭められることになってしまったのです。
 そういうわけでトムソーヤを立ち上げました。具体的には平成9年2月ごろに公民館と打ち合わせを行い、口コミで募集を始めました。果たして子どもたちが集まるのか心配しましたが、4月には15名ほどの子どもたちが集まり、スタートしました。トムソーヤという名前が男の子ですから当初集まったのは男の子ばかりでしたが、しばらくすると女の子も入ってきて現在は男女合わせて15名です。
 設立当初は、トムソーヤの活動を広げていくための後援会や保護者の組織も立ち上げて、保護者にもいろいろと手伝ってもらっていましたが、今はそういうものはなくなっています。親や私が子どもたちを指導するのではなくて、子どもたち同士が自然にお互いのことを考える。大人たちが仲良くしなさいとかいうのではなく、子どもたちが集団でかかわることで成長してくれればいいと思うのです。
 かつての子どもは自分たちで勝手に山や川に行って遊んでいたわけですが、今の子どもはそれができません。だから、そういった場をトムソーヤが提供するわけです。親にしてもどこに遊びに行っているのかわからないよりは、トムソーヤに行っているという安心感もあると思うのです。そしてプラスアルファーとして将来生きていくのに役立つものがあればいいなあと思っています。例えば、『お茶会』をするときには、茶道の先生をお招きして一人一人がお茶をいただくわけです。将来子どもたちが社会に出てそういう場面に出会ったとき、『あっ、子どものころにやったことがある。』と思えば、それだけでいいのではないかと思っています。子どものころに経験した、してないというのはそれだけで何か違うと思うのです。」

 イ トムソーヤの主な活動

 「トムソーヤの活動日は、毎週火曜日と木曜日で、時間帯は午後5時~7時です。毎週火曜日は基本的に大生院公民館で活動しますが、この時間帯に設定したのはそれなりのわけがあります。ふだん公民館では様々な団体の活動が昼夜を問わず行われていますが、だいたい老人会や婦人会の活動は昼間にあり、遅くても午後3時か、4時には終わっています。また、夜の活動はたいてい午後7時ころが始まりの時間です。つまり、午後5時~7時という時間帯ならば、調理場だろうが、普通の部屋だろうがどの部屋であっても、子どもたちはどこにでも自由に出入りができ、そして使えるわけです。これがこの時間帯の大きな魅力なのです。
 こういったメリットを生かして毎週火曜日には公民館を中心に文化的な活動や体験活動を行います。例えば『押し花教室』『竹で作る風鈴』『点訳ボランティアの話を聞こう』とか、『ペットボトルで作るロケット』『水風船で作るキャンドル』『焼き芋を焼こう』といった多様なものを実施しています。こういう活動には、専門的な指導のできる地域の方に協力をお願いし、ボランティアとしてきてもらいながら、子どもができることは何でもやろうという気持ちで活動しています。一方、毎週木曜日は大生院小学校の体育館を利用して、キックベースボール、サッカー、ドッジボール、野球、バドミントンなどから子どもたちがその日にやりたいものを二つ選んでスポーツ活動を行っています。
 トムソーヤへの参加にあたっては特に制限はありません。来る者は拒まずでやっています。でも、一つだけ『五つの心』という決まりがあります。五つの心とは、『協力する心・努力する心・規律を守る心・創造する心・感謝する心』のことで、こういった気持ちを育てることを活動のねらいとしています。『五つの心』は子どもたちにはなかなか理解してもらえませんが、少しずつ活動を積み重ねていきながら子どもたちが成長し、理解していってくれればと考えています。
 平成9年(1997年)の設立以来、純粋なボランティアとしてトムソーヤの活動に取り組んできましたが、平成16年度からは愛媛県の『地域子ども教室推進事業』の実施教室の一つになって、県からの補助を受けるようにもなりました。今年度でこの事業は終わるわけですが、もともとボランティアではじめた活動ですから、今後とももちろん続けていくつもりです。
 また、これまで地域の子どもたちはもちろんのこと、大人たちも巻き込みながら大きなものを作り上げる活動もやってきました。平成12年(2000年)にペットボトルを約1万7千本使って高さ約10メートルの光のタワーを作りました。製作にあたっては、タワーの上部をトムソーヤの小学生、真ん中の部分は大生院中学校の生徒会、そして土台部分を地元の大人たちという感じで、それらを合体させるのです。各パーツの組み立て作業には大生院出身の高校生たちも手伝いに来てくれました。彼らは寒くても雨が降っていてもやってきて、本当によく手伝ってくれました。
 翌年(平成13年)には、『サンタ館』という建物を作りました。
 トムソーヤの小学生には建物の外観のペンキを塗ってもらい、そのペンキの上に大生院中学校の美術部の生徒にデザイン画を描いてもらいました。また、建物の内部には地元の保育園や幼稚園の子どもたちが製作したぬり絵を貼り付けて飾りました。建物の長さは約10メートルありますが、子どもは狭いところが好きですから内部は幅90センチほどの通路になっています。サンタ館というくらいですから内部にはサンタの絵がびっしりです。『冬の七夕』と題して七夕飾りを作った年もありました。昨年(平成17年)はペットボトルを利用して『風のアート』というものを作りました。これは農家の方が畑に作っている風車を御存知だと思いますが、それをペットボトル300個で作ったのです。いずれの製作物も設置したのは公民館の敷地ですが、地元の子どもたちや地域の方々を巻き込みながら作り上げてきたのです。」

 ウ 「渦井っ子」も立ち上げて

 「平成14年(2002年)度からは働く親の子育て支援として春夏冬の長期休業中に子どもたちを預かる『渦井(うずい)(*5)っ子』を立ち上げ、午前8時半~午後5時まで公民館を中心に様々な活動を行っています。当時は仕事をもつ母親にとって、長期休業中に子どもを安心して預ける所がなく、夏休みに子どもを家に置いておくのが不安だが、児童センター等は遠くて利用しにくいという声があがっていました。そんなとき、ある母親から『自分の子どももみるし、他の子どもの面倒も一緒にみるから、何かいい方法がないものか。』と相談を持ちかけられたことがきっかけで始めました。
 当初は私と相談者の母親とボランティアの方の3人で運営していましたが、そこに子どもを預けている保護者にも加わってもらうようにしました。保護者にとって我が子が集団の中でどのように過ごしているかを見る機会は参観日や運動会などを除けばまずありませんので、『子どもを預かりますが、一日だけボランティアに来てください。』とお願いして、毎日交替で来てもらっています。一日ボランティアを通して我が子の姿を見て、子育てに役立ててもらえばと思っています。開設から5年経った現在では当初から預かっていた子どもたちが高学年に成長し、お互いを良く知る仲間同士ですので運営はやりやすく、その子たちの弟や妹たちの低学年の子を合わせると、30人近くが参加しています。
 渦井っ子を開設した翌年になると『渦井クラブ』が始まりました。渦井クラブは小学校1~3年生を対象に午後6時まで預かっている新居浜市の放課後児童クラブ(*6)です。仕事を持つ母親にとっては遅くまで預かってくれる渦井クラブのほうが預けやすいのですが、低学年の子どもしかみてもらえないので、渦井っ子は小学校4年生以上の受け皿でもあるのです。渦井クラブと渦井っ子は親戚(しんせき)付き合いをしています。『民話を聞こう』『琴の演奏会』『金魚すくいの名人になろう』などの活動のときには、渦井クラブの子どもに公民館に来てもらい、合同で行うのです。渦井クラブの子は低学年ですから小さいし、渦井っ子は高学年が多いので合同企画を通じて、高学年の子が小さい子の面倒をみるんだという気持ちも培(つちか)ってくれればと考えています。」

 エ 将来の大生院を見据えて

 「今の世の中では、自分の努力だけで育ってきたと思い込んでいる人が多いのではないかと感じています。例えば、自分が勉強して高校や大学に入ったのであって、そうやって今の自分があるのだと思っている人が多いということです。しかし、学校も社会があるからこそつくられているのであって、そういった場が社会によってつくられているからこそ知識を身につけたり、様々な経験を積んだりできるわけです。つまり、まず社会があって、そのおかげで自分があるということを案外わかっていないのではないでしょうか。だから、自分の学んだことや社会から受けた恩恵を社会に返していこうという気持ちが弱いのではないかと感じています。社会の中で育った以上は自分のできる範囲で社会に返していかなければ育った意味がないと思うのです。それが、私にとっては愛護班やPTA活動、剣道の指導、そしてトムソーヤの活動となっているのです。
 ただ、私のようにこういう活動に時間を割ける大人というのは少ないですし、今の活動を引き受けてくれる後継者はおりません。しかし、将来的にトムソーヤにかかわった子どもたちが親の世代となって、愛護班なり、PTAなりの活動に従事するようになったときにトムソーヤでの経験が生かされてくれればと考えていますし、彼らが将来の大生院の核として活躍してくれればと思っています。
 隔年で10月に行っている『ちゃりんこの冒険(しまなみ海道の約70kmを自転車で走破する体験活動)』では、現在高校3年生の子どもたちに手伝いをお願いすると、『いいよ。』と言ってくれます。受験も控えているので、こっちが心配するのですが、『おいちゃん、これくらいのボランティアをやってて、大学に合格できないなら、大学なんか行きませんから。』という言葉が返ってきたときには、すごいことを言ってくれるものだなあと感心しました。高校生の世代までは、活動を支える後継者が育ってきているのかもしれません。私たち大人がいろいろな場を提供することによって、子どもたちは自然に育っていくのだと思っていますし、それが私の活動を続ける上での喜びです。だから、これからもこの活動を一生懸命やっていこうと考えています。」


*4:愛護班 子どもの健全育成を目指し、昭和37年(1962年)に愛媛県の各地域に結成された組織。非行・事故防止活動や
  伝統芸能継承、レクレーション活動などを行っている。平成18年度、県下に1,780班がある。
*5 渦井の名称は、大生院地区のほぼ中央を流れる渦井川からきている。
*6 放課後児童クラブ 小学校低学年の子どもを学校の空き教室などを活用して、指導員が保護者の迎えに来る時間まで遊び
  の指導などを行いながら安全に過ごせる場を提供する事業で、『学童保育』ともいう。