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えひめ、子どもたちの生活誌(平成18年度)

(3)身近な公園をいかして-星の子クラブ-

 『遊びは子どもの発達の源泉(①)』であり、それは『子どもがひたすら遊びに熱中するあまり、そこではつねに1、2歳分背伸びをし、自分の普通の行動の水準よりも上へ跳躍しようとするから(②)』といわれている。松山(まつやま)市の南部にある星岡(ほしおか)町には、地元のボランティアによって子どもたちの遊び活動を支援する「星の子クラブ」が平成14年5月に設立され、異年齢の子どもたちが身近な地域にある遊び場で遊び、そのことによって育ちあえる居場所づくりが進められている。多くのスタッフとともにクラブ代表として活動されている**さんに設立のきっかけやこれまでの取り組みを聞いた。

 ア 子どもの姿が消えた公園

 「私には現在高校生と中学生の娘と小学生の息子がおりますが、この子たちを育てながら地域の子どもたちの遊びの状況をつぶさに見てきた経験が星の子クラブを設立した背景にあります。
 長女が幼稚園に通っていたころは、小学校高学年から低学年までの子どもたち10人ぐらいが家の周りの路地裏でかくれんぼをしていたり、一輪車に乗ったりして遊んでいて、こういった情景がまだ普通の姿でした。ところが、4歳離れた次女が幼稚園に通うころには、遊びの変化が出てきました。次女はまだ姉たちと同じ世代の子どもと一緒に遊びますから、お店屋さんごっこだとお客さん役をしたりして、ごっこ遊びもやっていましたが、次女と同じ世代でも一人っ子の子どもさんだったりすると、ごっこ遊びが見られなくなっていたのです。そしてお店屋さんごっこを経験するまでもなく、即本物のお金を持ってスーパーなどの本物のお店に行くようになっていました。そして、一番下の子が幼稚園に通うころには、もう公園で遊ぶ子どもたちの姿はほとんどなくなっていました。『あっ、これは大変だ。』と思ったところがスタートです。それは、ちょうど完全学校五日制が始まった平成14年でした。
 当時は、子どもたちの活動の受け皿を地域社会に担ってもらおうという動きが起きていましたが、地域に帰してみたもののまだまだ子どもたちの居場所はなく、そのため仕事勤めの親にとっては子どもが自宅の中にいるのが一番安心というような状況さえあったわけです。でも、このままほうっておいてはいけないと思い、賛同してくださる地元の有志の方とともに星の子クラブを立ち上げました。幸い町内会からも受け皿作りを進めたいというニーズもあり、タイミングも良かったのです。」

 イ 毎週土曜日に集まって

 「当初は毎月1回の活動から始めましたが、現在では毎週土曜日を活動日として、午前9時半~11時半の時間帯で活動しています。子どもたちは活動の終わりの11時半がきても、まだまだ遊びたがっていますが、『もうお昼御飯の時間だからね、おうちに帰りましょう』というわけでお昼御飯に助けてもらって活動を区切ることができるのです。
 最近では土曜日に習い事や塾が入ってきて、参加したくてもできなくなった子どもも出てきており、土曜日の午後や日曜日の活動に変えてほしいという声もあがってきています。しかし、そうなると時間を適当に区切って終わらせることは難しく、スタッフの負担を考慮して現在の時間帯で活動しているのです。
 クラブの活動には、それこそ三々五々子どもたちが公園に集まってきて好き勝手に遊び始める日と、毎月1回『レッツトライ!星の子』と名付けたお楽しみ会の日があります。これは前回のレッツトライが終わったときに、次にどんなことがしたいか子どもたちにアイディアを出させ、それをもとにボランティアで参加している高校生たちが具体的な企画を練り、さらに私たち大人が話し合い、そして実施しています。子どもたちの声を聞きながらいろいろなものをやってきましたが、秋の定番には『星の子運動会』という企画があります。学校の運動会シーズンに合わせて子どもたちはやりたがり、いろいろな競技で必死になって競争し、とっても楽しんでいます。
 高校生の話が出てきましたが、クラブには様々な支援をいただくネットワークが存在します。それは地域の方ばかりではありません。高校生では松山城南高等学校のVYS(*7)部、大学生では愛媛大学の児童文化研究会から支援をいただいています。高校生が定期考査などで活動できないときには、代わりに大学生が来て活動を支えてくれているのです。また、特定非営利法人(NPO)松山子ども劇場21(*8)からもスタッフの参加をいただいています。その結果スタッフは平均して15人位が入れ替わり立ち替わり参加し、活動日には高校生や大学生たちと小学生が一緒に遊んでいるので、それこそ普通には見られない光景が生まれています。今では参加してくれる高校生の中にクラブ出身の子もいるようになりました。
 星の子クラブでは、子どもたちが『自分たちの責任で自由に、自然に遊ぶこと』をスタッフがサポートしています。そして、遊び中の事故やケガ、そして活動場所への行き帰りも含めて参加している本人の自己責任を原則として活動を行っています。ですから、入会にあたっては保護者から子どもを自己責任で参加させる旨の同意書と緊急連絡先を記入した申込書を提出していただくようにしています。ただし、就学前の幼児は保護者同伴での参加を原則としています(平成17年度の入会者は98名)。
 しかし、いくらボランティアだからといっても賠償責任を問われることへの備えも大切と考え、スタッフには社会福祉協議会が扱っているボランティア活動保険(*9)に加入し、自身の傷害と参加者に対する賠償責任に対応できるようにしています。また、設立当初から活動中の危険予知や対処法といった危機管理に関することや、野外・室内での遊びについて専門の講師を招いてスタッフ講習会を行っています。年間5回実施し、スタッフの安全管理指導技術を高めるばかりでなく、学んだ遊びなどはすぐに活動に取り入れることにしています。スタッフには伊予東温VYSで活躍されている方もいるので心強い限りです。

 ウ 小学生への支援の必要性

 「小学生への支援は盲点ではないかと思います。小学校入学前までは積極的に親は子どもにかかわろうとしていると思います。例えば、何か良さそうなイベントでもあれば、遠方だろうが、毎週だろうが、熱心に子どもを自動車に乗せて連れて行ったりされていると思うのです。
 ところが、小学生になると親は学校にまかせてしまいがちで、小学生だから放(ほう)っておいても育つだろう、公園などの遊び場もあるから遊べるだろうと考える傾向があるように思います。小学生になって親から離れて遊ぶことは自立を促すうえでとても大切です。しかし、地域の中で幼児期に仲間づくりをする機会(経験)は少なく、また子どもたちだけで安心して集まる環境が整っているとはいえません。その結果、小学生になったとたん、いわば『ぽん』と放(ほう)り出されたような状況になっているのではないでしょうか。
 実は私たちが平成17年に独立行政法人福祉医療機構からの助成金を受けて実施した『放課後及び休日の子どもの遊びの実態と要望調査(③)(*10)』からは、想像以上に子どもたちの遊びの文化が崩れていることが明らかになりました。それを一言でまとめると『友達二人以内や家族という本当に小さな人間関係の中で、大半の時間を室内でテレビやゲームで過ごす傾向が顕著であり、平日の子どもの外遊びの平均時間がわずか12分』というものでした。そして、街中や山里を問わず、いずれの生活環境の小学生も十分に遊べておらず、子どもたちが仲間づくりや創造力、自主性、体力といったさまざまな生きる力を集団ではぐくみ合うという環境が失われていることを示唆していました。つまり、小学生にとっての遊び場はもはや自然任せでの形成は困難で、何らかの支援なくして形成されない状況にあることが再確認できたのです。だからこそ、小学生への支援は必要なわけです。」

 エ 地域にこだわり、その懐の中で

 「私たちは身近な地域でなければ子どもが育たないと考えています。その理由は、子どもたちが自分たちで社会を作ろうと考えたときに、親に連れて行ってもらわなければならない範囲では作ることができないと思うからです。親たちにとっては自動車でどこへでもいけますから、松山市内全域を『地域』ととらえることもできますが、子どもにとってはそうではないのです。だから、子どもたちが自分で歩いていくことができる地域で、年齢の異なる子どもたちが安心して集まり、豊かな遊びや体験を通して、体力や社会性などの生きる力をはぐくみ合うことのできる遊び場づくりに取り組んでいるのです。
 それに地元のものを使えば新しい施設も費用もいりません。公園や集会所を利用し、地元の学校や町内会の協力を得れば、人も物も何も不自由はしないと思います。ですから、活動場所は星岡公園(雨天時は星岡集会所)や星岡山といった星岡町内を基本としています。実際私たちも地元の町内会、婦人会、水利組合といった様々な団体や個人の方から有形無形の御支援と御理解をいただいており、地元の方の懐の深さのおかげでここまでやってこれたのだと本当に感謝しています。
 設立から4年余り活動を続けてきた現在では私たちの活動も町内に十分に知れ渡るようになりましたが、設立当初は地域に認めてもらうことから取り組みました。町内の回覧板に活動内容を記したチラシを入れさせてもらったり、活動当日には町内放送で連絡させてもらったりしました。事前に広報することで、私たちが不可解な団体ではないと理解していただくとともに、例えば星岡山での活動をしていても、そういえば今日は秘密基地を作るとか放送でいっていたなあとか、回覧に入っていたなあと地域のみんなに知ってもらえて、活動への認知度が上がっていくことになります。そういったことが結果的に子どもたちの安心や安全が守られていくことにつながると考えているのです。つまり、『地域のコミュニティが最大のセキュリティ』になると考えているのです。」

 オ 星の子クラブのこれから

 「これまでの活動を振り返ると、星の子クラブでは可能でもそのほかの地域ではできないような活動になっていないかという反省があります。例えば、みんなが飛びつくし、行きたいと思うような華やかなイベントの実施や必要な備品や活動で使う遊具の購入に、いくつか助成制度を利用して当ててきました。ただ、助成制度を利用するには申請方法から始まって様々なノウハウが必要です。幸いスタッフの中にそういったものが蓄積されていたからこそやってこれた側面があるのです。
 しかし、本来子どもたちの活動を支援することは、そういったノウハウの有無ではなく、だれにでもできるものでなければならないと思うのです。ですから、今年からは原点に戻り、地域の子どもが自然と公園に集まり、普通に遊ぶことをサポートするような地道な活動を重視したいと考えています。
 そして、もう一つ進めていきたいのはボランティアとして地域の中で子どもたちの活動を支援する活動を立ち上げたいという方たちを結び付けていくコーディネート活動です。というのも、私たちの活動が活発になればなるほど遠方から聞きつけて参加される方が増える傾向がありました。これは、私たちのような活動が身近な地域にあってくれればというニーズを示していると思うのです。
 先ほど紹介した調査結果では、『子どもたちの活動を支援するボランティアとしてかかわってもいいか』という質問に対して、全体の14%の保護者が『いい』と回答しています。この比率を児童が500人の小学校で置き換えてみると、のべ70人以上の保護者が賛同していると解釈できますから、こういった地域内にある潜在的な意欲や能力をもっている個人や団体の方々を結び付ける活動を進めたいのです。そして、潜在的なニーズのある地域へのコーディネートがきっかけとなってその地域の活動が始まり、様々な情報提供もできればと考えています。
 活動5年目の今年からは、これまでのような町内の子どもたちの遊び場づくりを支援しながら、町外の様々な地域で星の子クラブのような活動が生まれてくるようなコーディネート活動も進めていきたいのです。そういう意味からも私たちの活動は新たな転機を迎えたところだと感じています。」


*7:VYS Voluntary Youth Social workerの略称で、子どもたちの健全育成を願い昭和27年(1952年)に愛媛県で生ま
  れ、全国に広がった青少年のボランティア運動のこと。
*8:松山子ども劇場21 子どもたちの豊かな成長を願い、舞台芸術観賞やさまざまな体験活動を主催する団体。前身は昭和
  45年(1970年)設立の「松山子ども劇場」で、平成14年(2002年)にNPO法人となる。
*9:滋賀県津市の子ども会のボランティア指導者が活動中に起きた子どもの事故の責任を問われた『津市子ども会裁判』(昭
  和51年〔1976年〕)を契機として、善意で地域活動に携わる人々が万が一のトラブルに巻き込まれた場合の支援策と
  して地方自治体や全国社会福祉協議会が取り扱うボランティア活動保険の整備が進んだ。
*10:放課後及び休日の子どもの遊びの実態と要望調査 松山市、今治市、久万高原町から抽出した16の小学校6学年の全児
  童とその保護者を対象に、平成17年10月~11月に実施。実施数6,090、回収数4,208、回収率69.1%。