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えひめ、人とモノの流れ(平成19年度)

(3)『きじプロジェクト』の未来

 ア 核となる人材の育成

 「今後の売上拡大を見据えて、今一番取り組んでいきたいのは雉工房の核となる人間の育成です。現在の工房はほとんど臨時職員で担っていますので、三嶋さんや食の大使の先生方、そして一流料理店の料理といった工房の応援隊の皆さんから教えてもらった様々なノウハウを蓄積し、我々とともに次なる戦術を一緒になって練ってくれるような核となる方が欲しいのです。そして最後には工房から町の職員は全員引き揚げ、民間企業としてやっていけるようにしていきたいと考えています。
 全国各地で設立された第3セクター方式の事業体が立ち行かなくなった背景には、こういった事業の核となる人材、つまり後継者の育成をきちっとしておかなかったことがあるのではと私は感じています。現時点では人材育成についての戦略をなかなか具体化できていませんが、核となる人材の育成ができて初めて私たちの雉プロジェクトは成功したといえると考えています。」

 イ 雉は町づくりの突破口

 「新しいもの、未知なる分野に入り込んでいくというはりきりがあります。そうして、どうしてもこのプロジェクトを町内に確立させたいという思いがあります。普通の公務員の仕事ではこういった仕事はないものです。展開が毎年違い、今のところ業績が毎年伸びている。まだまだ目標にはぜんぜん遠いのですが、同じことの繰り返しではなく、新しいことに取り組んで、また次の目標を定めていくというおもしろさがあります。
 一方、新しさゆえに見えない部分がありますから、その都度悩みます。一番の悩みは、ここまで積み上げてきたこの動きをわかってもらえないことです。町内では、広く雉についての知ってもらおうと毎年10月に広見川の河川敷で行われる『でちこんか』というイベントのときには、2,500人分のジャンボ雉鍋(写真4-2-7参照)をつくったり、JA主催の農業祭や農業公社での『きじまつり』などを実施しています。また、町内にある道の駅『日吉夢産地』と『森の三角ぼうし』でそれぞれ年間5、6回程度、雉のイベントをやっていますので、こういったものをすべて合わせてみると、ほぼ毎月1回は町内のどこかで認知イベントをやっている状況です。しかし、きじプロジェクトに携わっていない側の人々からは、なぜ雉にだけ町がそんなに力を入れるのか、という声があがったりします。こういった当事者が抱える悩みや孤独感は、私の知る限り全国各地で地域開発に取り組んでいるところではどこにでもあったようです。その反対に三嶋さんや食の大使、町内での応援グループ、そして一流料理店のシェフのような応援隊も出てきてくださったりという面もあります。こういう両面の状況は新事業の立ち上がりの際にはよく起きるものだと思います。
 しかし、目指すところは一つです。それは雉が売れることによって、雉の名前で鬼北町の知名度が上がり、その結果多くの地元産の食材が売れていくことであり、広くいえば地域への還元です。例えば、雉の釜飯の販売キャンペーンを大手のデパートで行うことがきっかけになって、雉と地元産米、そして山菜を組み合わせてセットで売込みをかけることができればと考えています。
 また、三重県の希望荘という大きなホテルとの取引が始まったのですが、そこの責任者の方が鬼北町に来られて工房の見学をしていただいた折に農業公社が取り組んでいる地ばえのメロンを500個ほどお買い上げいただいた事例があります。このように雉が突破口になって、地域の様々な食材が一緒になって売れていく、秋になれば地元のクリと雉のブイヨンをからめた釜飯が売れるというように、地域の食材と雉をからめる形でどんどん販売していきたいのです。
 また、雉があるというのは売り込み材料になると考えています。町営の成川渓谷休養センター(鬼北町大字奈良(なら))のメイン料理を雉料理にしてから宿泊数が増え、その中にはリピーターも増えてきています。だから、もっと民間の旅館や食堂に雉料理をはじめてもらって、鬼北町に行けばどこの店に入っても雉料理があるという状況にして、雉を目当てに人がやって来るようにしたいと考えています。このようなシステムを作り上げることができれば多くの人が鬼北町を訪れるようになり、なんだかんだと地元経済が潤っていくものと考えています。
 だから、わたしにとっては、雉はあくまで町づくりのための突破口だと訴えつづけてきているのです。きじプロジェクトが本当に成功すれば、なぜ町が雉ばかりに力を入れるのかという真意が意見される方にもわかってもらえると考えています。こういう町づくりの突破口として雉に力を入れていくことがうまくいき、そして人材の確保とが実現していったときに、はじめてきじプロジェクトが成功したといえるのではないかと考えています。」

写真4-2-7 ジャンボ雉鍋を振舞う

写真4-2-7 ジャンボ雉鍋を振舞う

鬼北町近永。平成19年10月撮影