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宇和海と生活文化(平成4年度)

(1)オイコと背負いカゴ

 調査の途中現地でよく目にしたのが、オイコや「カルイカゴ」と呼ばれる背負いカゴを背にして歩く老人の姿である。一般的に山村によく見られる農道具である。けわしい段畑での作業には欠かせなかったに違いない。「とくにカルイカゴは、便利ですよ。口が大きいので、前を向いたままでも、野菜などをポーンと放り込むことができるでしょう。」と、先述の**さんに聞いた。カゴの本体は竹であまれている。
 「力夕」とよばれる肩紐の部分は、現地で「シロヌキ」とよばれるシュロの繊維をなった縄を使って、わらじを作るように編み込んでいく(写真3-2-18参照)。端切れなどを一緒に編み込むと、カラフルになりきれいだ。最近はシュロのかわりにビニールの紐を使って編み込む人もいると聞いた。カゴの口の部分は背中に面した側から後方にかけてゆるやかに傾斜し、前かがみの姿勢で背負ったときに、水平になるようにできている。小島で出会った**さんのテーラーの荷台には、青い樹脂性の背負いカゴが2個のっていた。聞くと、「昔は竹製のカゴでした。うちに帰ると、今でも残っていますが。最近は、こっちの方をよく使います。」とのことだった。
 オイコについては、予備調査の段階で、三瓶町文化会館会長の**さん(昭和2年生まれ 65歳)からおもしろいことを聞いていた。**さんは瀬戸町内の小学校に長く勤務した経験があり、佐田岬半島に共通したオイコの特徴を次のように語ってくれた。「オイコそのものは山村など全国的に珍しいものではありませんが、岬半島のオイコにはちょっとした工夫が見られるんです。一般的なのは背の部分が梯子状になっているだけですが、この地方のオイコは下に腕木のようなひっかかりがあるんです。荷物を運ぶとき、いちいち固定しなくてもそこにちょんと乗せるだけでもけっこう落ちませんから、便利なんですよ。」
 現地へ出向いて聞き取りを進めるうちに、オイコには「Ⅰ.天然の根を利用した型(写真3-2-19参照)」、「Ⅱ.天然の枝を利用した型」、「Ⅲ.角材に切り込みを作って脚(ひっかかり)の部分を差し込むサシアシオイコ型(口絵参照)」の3種類があることが分かった。オイコの材はマツで、Iの型の場合、上向きに反り上がった状態の根があると、根ごと掘り起こしてくる。太さにもよるが、幹が背軸、根が脚(ひっかかり)の部分になるように縦割りにすると、左右対象の部品がちょうど一対とれることになる。「根を使うと丈夫で、何十年ももちます。」と、**さんの奥さんが教えてくれた。話を聞いた範囲では、「I.根を利用した型」はシタテに、「Ⅱ.枝を利用した型」はウワテに多く分布しているようで、「Ⅲ.サシアシオイコ型」は両方で見られた。
 ところで、オイコについては、織野英史氏が「瀬戸内周辺における背負梯子の形態と分布(⑩)」というかなり詳細な研究をすでに発表している。その中で、「I.根を利用した型」は、『L字形有爪化型』と分類しており、宇和海周辺のみかん地帯に多く、みかん運搬との関連も指摘している。
 「毎年、文化祭に手作りの背負いカゴを出品される人がいます。今でも、こうした民具を作る伝統技術は残っています。」と、町民文化祭の準備で忙しい最中にもかかわらず、中央公民館館長の**さん(昭和3年生まれ 64歳)が、お話を聞かせてくれた。こうした生活に密着した伝統技術は、いつまでも受け継がれて欲しいものである。
 「風車の横の活性化センターにも、実物やミニチュアのカゴが売っておりますよ。」と聞いたので、立ち寄って見ると、背負いカゴが7,100円、サシアシオイコ型のおいこが9,500円で売られていた(口絵参照)。

写真3-2-18 カルイカゴ

写真3-2-18 カルイカゴ

平成4年11月撮影

写真3-2-19 マツの根を利用したオイコ

写真3-2-19 マツの根を利用したオイコ

平成4年11月撮影