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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇多様性・安定性・持続性を基本にした、森林づくり、村づくり

 森林の環境保全と村づくりとは、よく似ていて、「多様性・安定性・持続性」の三つがなかったら、どちらもできないと思っています。
 これから、この人工林も含めて久万の「森林」をどのように管理していくのかを考える時、そのキーワードは「多様性」だと考えています。森林の多様性、自然林はもちろんですが、人工林も、木の適応性に合わせて、いろんな樹林の混じった森林を育てる。
 村づくりにもいろんな人がいて、いろんな職人がいて、たとえば同じ種類の木でも、いろんな使い方をしていくということが、重要だと思います。
 次に、僕はT型思想と、モアベター思想というものを、考えています。
 「T」の縦の線は「自分の専門はできるだけ深く掘り下げる。」という意味で、横の線は「自分の専門だけではなしに、他の分野のことも勉強してみよう。」という意味です。たとえば林業家であれば、林道のつけ方に関して土木工事のことも、また木を生かした村おこしのことも、勉強してみようかといった具合にです。お互いに「T」の横の線の部分を勉強して、Tの字がずっと連なっていくことによって、一つの村づくりができるんじゃないかと思います。
 現在、小田深山(おだみやま)(小田町)で自然環境の調査をしています。深山のクヌギ林は、ちょっと高い(標高1,100mくらい)ので、低い地域(標高400m以下)のクヌギ林と比べると、葉っぱが小さくて、パッと見た目には、クヌギがクヌギに見えないんです。林の中も全然違うんです。深山のクヌギ林は、ササがびっしり茂っている。その中にタラの木などいろんな雑木が混じって生えています。
 ササを刈り開けて落葉や泥を集め、ふるいでふるって虫を採集してみると、原生林よりも多く採れるんです。また、灯火採集(夜一晩じゅう蛍光灯をつけて、虫を集める。)をすると、シャチホコガの仲間だとか、大きなガの幼虫に寄生するアメバチなどが、一晩で、2ℓくらいの容器に一杯採れます。こんなに採れるところは、ほかにはあまりありません。
 なぜかというと、もともとクヌギのなかった所にクヌギを植林したので、最初は、害虫(シャチホコガなど)が「やったね、やったね。」といって発生します。ある程度増えてくると、今度は天敵(アメバチなど)のほうも「わしらの子孫をたくさん残せる。」というので、どんどん寄生して増えます。その結果、アメバチやクリタマバチなどに寄生するコバチ類が、小田深山の中で一番よく採れるほど多くいるんです。
 クヌギの成長段階によって、変わってくる例をもう一つ紹介します。キツツキとシロスジカミキリの場合です。シロスジカミキリは、クヌギの幹が腕首ぐらいの太さになると卵を産み付け、幼虫は材の中を食べてレンコン状にする。ひどい場合にはクヌギを枯らしたり根元から倒れるようにします。
 林を管理をしている人は、最初はクヌギを育てないといけないので一生懸命下草刈りをします。そうするとシロスジカミキリも移動しやすい林になり、「やったね。」と卵を産み付けます。サナギになるころになると今度はキツツキがやってきます。一見するとキツツキが害鳥で、「クヌギの幹に穴を開けやがった。」という感じに見えるんですが、実は、サナギから出て産卵する前に食べてもらうので、害虫の発生量が少なくなるんです。でも、キツツキがいなかったらどうなるかと言うと、害虫の幼虫が本の中まで入ってしまい、それを殺すような天敵がほとんどいませんから、どんどんクヌギに被害が広がってしまうわけです。
 その後は手入れをしていないので、作業道にも人が通れないほど、ササや雑木が生えてきたので、シロスジカミキリもほとんど産卵しなくなり、キツツキもつつかなくなったんです。ところが、「調査しなければいけない。」ということで、今年6月に、森林組合の好意でショベルカーを借りて道を通れるようにしたんです。その結果、シロスジカミキリが道路沿いの木に飛んできて、幹にすぐ止まれるような状態になる。もうすでに3本ほどシロスジカミキリが産卵しています。きっと2年ぐらいしたら、そこにキツツキが来てつつくと思います。この例は、人間が育てている木に対して良かれと思って行うことが、逆に害虫の発生を誘発した例と言えると思います。
 少し話がそれますが、イノシシの話題を。先日灯火採集をしていると、後ろのほうでボゴボゴと音がして、何かと思ったら、イノシシが来て、一生懸命ササの根っこを掘って、せっかく直した道路をデコボコに掘っているんです。ライトを当てても、「あんた、何しよるん。」というような顔をして、すぐには逃げないんです。昨日も、深山からの帰りに大きなイノシシが道路に出てきて、車の前を横切って急な法面(のりめん)を走り上がったんです。イノシシが出てくるのはここ十数年前からのことで、それ以前はイノシシなんて、あまり見たことも聞いたこともないというような状態だったんですが。結局、人間の便利さとか豊かさばかりを追及しすぎると、その逆の効果も出てくるような気がします。
 じゃあ、久万の山はこれからどうしたらいいのか。「下刈りしたらいい、間伐したらいい、管理したらいい。」ということを何百回と言っても、言うだけでは何にもならないんです。実際に地元に残って管理していく人材や環境整備などが、大事になってくるのではないか。そこで必要なのが、やはりT型思想、モアベター思想で、「今の状態がいけない、いけない。」と言うばかりではなく、「今はこうなっている。これから、どうしたらいいか。」を考えていかないと、良くならないのではないかと思います。
 僕も、あまり植林が進むので、中学校を卒業した時に、ヤマザクラの苗を植林して純林を作ったことがあるんです。ヤマザクラばかりだと、ある程度までは育つんですが、カイガラムシとアブラムシが大発生して、途中で枯れてしまいました。山へ行って、ヤマザクラが育っている場所を見てみると、雑木林の中にポツリポツリと育っているんです。それで今は、クヌギとヤマザクラとケヤキを混植して、どのようになるかやってみているんですが、混植のほうが良さそうです。どうも、単一種をまとめて植えるのがいいというものでもなさそうです。
 「人工林でも、複相林(高木と低木が混じった林)にすればいい。」という考えがある。しかし、単に大きいスギと小さいスギを植えているだけで、地表面に草が何もない状態ならば、それは複相林と言っても、動植物の豊かさという面では決してよくない状況です。複相林にする場合は、できれば、スギ・ヒノキの大きな木と、下にはアオキやヒサカキといった雑木が生える状態にします。スギやヒノキは、ある程度の間隔で植林し、将来大きくしていこうという木を、育てていくこともやってみたらどうかと思っています。
 ただし、実際にやるのは非常に大変なことです。歩きにくい、作業は困難になり、効率は上がらない。ごく普通の人工林にしておけば下草も全然生えないから、チェンソーを持っても歩きやすいし、どこでもサッサと行って好きなように切れるという状態ですが、作業環境的にはデメリットもある。このあたりのことをどうしたらいいかというのは、これからの問題だと思いますが、こういうことを考えていくかどうかで、その地域の森林が良くなっていくか悪くなっていくかの方向が決まっていくのではないかと思います。
 僕も植えていますけれど、たとえば床柱用のスギなどを挿し木で増やし、植林して育てていますが、最近、そのとん先(先端)の芽にガの幼虫が入るんです。これが2種類います。ひどい時には、9割ほど入って、結局その芽をとって、その下の芽を「お前が幹になる芽だから。」と、3回ぐらい言い聞かせてから、下草刈りを行っています。
 今、害虫の名前はわかりませんけれども、そういう優良品種として推薦しているスギの害虫は、根っこ付近をかじって、全体を枯らす虫と、アブラムシ、カイガラムシ、ガの2種類。これが一番、今のところ影響が大きいのではないかと思います。
 これからも同じ種類の木ばかり植えていくと、害虫は「やったね、やったね。」と言ってどんどん増えていく可能性があると思います。
 だから、そういう点などを見ていくと、やはりこれからの防除方法は、すぐ農薬をまけば済むという問題でもないと思います。いろんな視点から少しずつ考えていったらいいのではないかなと思っています。
 時間がきていますので、このあたりで終わりたいと思います。