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わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇はじめに

若林
 まず最初に、簡単に私の自己紹介をさせていただきます。皆さん、これ、ご存じですね。そう、カツオ節です。そのなかで荒節(あらぶし)とよばれるものです。こちらは南太平洋のソロモン諸島産、もう一つはインド洋のモルディブ産です。日本の伝統食品とされるカツオ節は海外でも作られているのです。これらは私が現地から持ち帰ったものです。
 私は今、このカツオ節やカツオの研究を続けております。では、この研究と地域研究がどのようにつながるかということを簡単に申し上げましょう。私は直接的にはカツオを釣ったり、カツオ節を作ったりしている人を研究しているのですが、その人たちの住んでいる地域があり、そこには独自の社会や文化が存在するわけで、そちらも視野に入れて検討する必要があります。つまり、カツオを通して地域が見えてきますし、逆に、地域的な背景を踏まえることでカツオやカツオ節の現況がよりはっきりしてくると思います。
 実は、ソロモン諸島と愛媛県はつながっているのです。というのも、ソロモン諸島産の荒節は伊予市にある大手の削り節屋さん3社のうちの1社へ納入されているからです。カツオを通して南太平洋の小さな島と本県は結びついているのです。こうしたことは、関係性、さらには、ネットワークという言葉があてはまるでしょう。このネットワーク形成ということにも留意しながら、風早のことを勉強していきたいと思います。
 そんなわけで、私は大学でカツオの先生とよばれていますが、愛媛に住んで、まだ5年あまりです。ですから、皆さんといっしょに学んでいきたいと思います。今日はそうした大学教員が司会進行をさせていただきますが、どうぞよろしくお願いします。
 さて、愛媛学セミナーは、生涯学習活動と地域づくりに関して、具体的に身近な地域のことを学んでいこうという趣旨で開催されており、過去3年間に県内11会場で開催されました。今年は3会場で実施されますが、そのうちの一つが御当地北条市で、「風早(かざはや)のくらしと文化」というテーマで開催されることになったわけです。
 風早とよばれる北条市は、かつては伊予国守の河野氏の根拠地だったところです。また、伝統芸能として伊予万歳(まんざい)もあり、生活に根ざした昔話や数多くの句碑があります。伝統的な生活様式や文化に焦点を当てて、風早・北条という地域についての理解を深めていただき、これを機会に「風早学」とでもいうべきものを模索してみたいと思います。大上段に構えた議論ではなくて、身近な地域のことを少しでも学問的にしてみようとか、興味や関心を持ったことをきっかけに学んでみようとか、もっと言えば、このセミナーで何か得ることがあって、今まで以上に地域のことに目を向けてもらえるきっかけになれば、幸いだと思います。