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わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇これからの地域学

若林
 では、風早学の可能性について、話を進めたいと思います。つまり、「地域学のすすめ」ということになりますが、横浜学の実践・経験を踏まえたお話を加藤先生からお伺いしたいと思います。地域学の実践にあたっての注意点、心構えといったものをお聞かせください。

加藤
 こういう講演会をしますと、これは横浜でもだいたいそうなのですが、ほとんどが、私ぐらいの年齢の男性と、それから少しお若い女性です。それで、主催者からは、若い人が来ないので困るという声をよく聞きますが、私はそれは違うと言いたいのです。特に、40代の主婦がたくさんこういう場に出て来るようになったということは、文化の底がグーッと上がっているということなのだというのが、まず第一点です。
 二つ目は、60代、70代以上の方々。これだけの高齢化社会だから、そんなに年寄り扱いすべきではないと私は思います。問題は、大正世代や昭和の一けた世代は、若いころに自分でしたいことを持ちながらも、時代が許さず、今になって初めてそういうものに打ち込めるという形を持っている恐らく最後の世代ではないかという気がするのです。先ほど所長さんがおっしゃいましたが、今ここで、ある地域の文化が自覚され、地域学が進まないと、次の世代は危ないのではないかというのは、私も同感です。
 100年以上前の近代以前ですと、平均寿命がずっと短いということもありますが、だいたい42歳ぐらい、ちょうど厄年のころに、商家の場合には隠居して、それから勉強、道楽、遊び、芸能などの世界に入っていました。年をとればとるほど、言い替えれば、成熟すればするほど、より深い意味が見えてくるというのが、芸能であり、一種の技術であり、さらに言えば、要するに総合判断だと思います(その分だけその年配の人にとっては、若い人が何か頼りなく見えたりして、ついつい小言を言ったりするのですが。)。だいたい今の60代以上の人は、自分が持っているものを、若者たちに対して自信を持って伝えられる、最後の世代ではないかと私は思うのです。ですから、その意味で、私自身もアンカーとしての自覚を持ちたいと思います。
 それから40代ぐらいの女性ですが、この世代の女性は、次に続く20代、10代の子供たちにつないでいく大切な世代だと思います。
 現在の日本には、少なくとも近隣、あるいは隣村同士が戦争状態というようなことはありませんが、いい意味での競争というのがあります。自分が生まれ育って、たぶん死ぬまでいるこの町が、これから先、自分たちが生きた時代よりも悪くなっては困る。あるいは、ひょっとしたら、過去100年、近代化の中では、なんか少しずつおちぶれてきたような自分の町が、今度は敗者復活戦ですごくおもしろい方向に行くかもしれない。おらが町北条は、松山に比べてどうだ。単なるベッドタウンじゃなくて、松山に対してどうだと胸をはれるようなことが出てくるのではないかと思います。そのような、この町として、この先、何かがあるのではないかということを考えるきっかけが、たぶん出て来ると思います。
 もう一つ、今、都会に出て来ている子供たちは、自分の出身地のことをあまり知らないように思います。先ほども言いましたが、私の大学も、学生のうち4分の3が全国から来ていますので、彼らに出身県や町の特徴を、3分でも5分でもいいから話してごらんとよく言うのですが、全くそういう教育を受けていないので、真っ白になってしまうようです。しかし、それを春のうちに言っておくと、夏に家に帰って、「先生、私のところの県の特徴はこうですよ。」「ほう、それじゃあ横浜と比べてどうだ。」という話に、だんだんなってきます。次の休みにアジアへ旅するときには、郷里・横浜・アジアの旅先と3つがつながってきます。そういうことを、家庭の中で子供たちに話題として伝えていくことが、今まで学校教育に沿っていい成績ばかりを取らせようとした子供の育て方と違う、これからの40代の女性の役割ではないかと私は考えています。そして、そういう役割というのは、地域をどうするかを考える上で、将来に向けて大きな示唆(しさ)となるのではないかと思います。

若林
 貴重なコメントをありがとうございました。加藤先生のお話を伺いながら、改めて、老若男女を問わず、世代や性別を越えて、地域の社会や文化に関して研究したり、学習したりする場や機会が必要だと感じました。これは本県の構想する「生涯学習としての愛媛学」につながるものであります。その意味で、今後、より活発で多様な活動が期待されるところです。
 それから、伝統的な文化をはじめとして、地域の文化について世代を越えてどのように伝承していくかということも課題となります。この点に関しては、この後に行われるワークショップで地元の発表者のお話を伺った上で、できれば、もう少し検討してみたいと思います。
 時間も参りましたので、対談講演は終了したいと思います。加藤先生、そして、皆さん、どうもありがとうございました。