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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇「二宮尊徳革命」と「自由時間革命」

石森
 それと、もう一つ重要な変化が、今、静かに日本国内で起こりつつあります。それは、わたしが「自由時間革命」と名付けたものであります。これを御説明するには、まず明治政府が採った政策からお話ししなければならないのですが、かつて明治政府は、欧米に追い付け追い越せと、短期間のうちに近代化を達成しようとしました。そのために明治政府は、富国強兵・殖産興業政策を採りました。すなわち、兵力を強めるとともに、国の産業を興した。特に、鉄は国家なりということで、重工業を発展させました。その時に、明治政府は、日本国民に対して富国強兵・殖産興行政策の気運を盛り上げるための方策を採りました。それをわたしは、「二宮尊徳革命」と呼んでおります。
 では、二宮尊徳革命とは何か。ところで皆さん、終戦までの教科書の中で、最も数多く取り上げられた日本人はだれだと思われますか。それは、近代日本を作った人物としての明治天皇であります。そして、2番目に多く取り上げられたのが、二宮尊徳であります。二宮尊徳と言えば、薪(まき)を背負いながら書物を読む姿がすぐに目に浮かぶと思いますが、では、なぜ彼が取り上げられたのか。それは、国民一人一人に勤勉と倹約と貯蓄の大切さを教えるためでした。すなわち、明治政府が富国強兵政策と殖産興業政策とを強力に推進するためには、すべての国民が勤勉と倹約と貯蓄に励まなければならなかったからであります。したがって、教科書の中で二宮尊徳をたたえ、小学校唱歌で尊徳さんは偉い人と歌い上げ、さらに、先ほど紹介した二宮尊徳像を全国各地の小学校に建てたのです。
 日本国民は、勤勉と倹約と貯蓄とを見事に具体化しました。一人一人の国民が、まさに二宮尊徳を具現化し、勤勉と倹約と貯蓄に励んできた結果、日本は、現在のような経済大国に成長しました。しかし、そのマイナス面として、これまでの多くの日本人は、仕事の中にしか生きがいを見いだせなかったのではないでしょうか。仕事をしている時に、「ああ、自分は生きていて良かった。」ととりあえず思うことができたわけです。しかしこれからは、そういう時代ではなくなってくるとわたしは考えます。自分の人生を見つめる時に、ただ単に仕事だけで人生を組み立てるのではなく、仕事を離れた自由時間の中で、「ああ、生きていて良かった。」と思いたいと考える人が増えてきております。こうしたライフスタイルの変化を、わたしは自由時間革命と呼んでおります。そしてこの傾向は、特に若者や女性、シルバー層を中心に顕著なようです。
 そういう意味で、日本は、今大きく変わりつつある。わたしは、これは大変結構な方向であると思います。これまでは、本当に国民一人一人が、経済的な数値や所得をいかに上げるかを優先してきました。確かに、所得が向上することも重要です。しかし、それ以上に、人生の充実というものをもっと違う形で考えようとする人が、確実に増えつつあると思われます。
 そこで、次に、こうした生き方を見いだされたお坊さんの話をいたしたいと思います。