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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇「普通」「当たり前」がおもしろい

小西
 小田町では、本当にいろいろなことをたくさん学びました。非常に豊かな自然があるということもその一つだったわけですが、そのほかに、木にかかわってくらしていらっしゃる方々からも、いろいろと教えていただきました。小田町に、下駄作り一筋に歩んでこられた方がいらっしゃいます。もう80歳を過ぎたおじいさんなのですが、その下駄が少し変わっております。桐(きり)下駄なのですが、足の形に合わせて作られていて、例えば、土踏まずに当たる部分はすこし盛り上がっています。現在では、お年を召されましたので、一月に6足か7足しか作れないとのことですが、この形にこだわり続けている。履く人の身になって作っていらっしゃる。だから、この方が作る下駄にはファンが多いのですね。ごく普通に思えるおじいさんが、実はすごい人だったわけです。
 こういうことが、小田町でくらすなかで経験できました。普通の人が、実はすごい。当たり前のことが、ひょっとしたらすごいことかも知れないということはよく言われるのですが、それを本当に実感できたのが、下駄作りのおじいさんとの出会いでした。
 わたしが小田町で出会った人々の中で、もう一人印象に残っている方がいます。この方は和菓子作りに携わっておられます。お菓子作りにおいては、品質を多様にして、いろいろな製品を作るという仕方が多いかも知れませんが、この方は、ただ一つの和菓子にのみこだわり続けて、それだけを作っているのです。今から14年ほど前に、その人が30個の灯籠(とうろう)を自費で作って、小田川に流してみせました。この風景の美しさに町商工会の人たちが共感して出来上がった新しい祭りが「灯籠まつり」です。この小田の祭りは、わたしにとっては、地域おこしを考える上からも、それから、伝統というものがどうやって生まれるのかを考える時にも、非常に参考になった祭りです。
 以上で、わたしの話を終わらせていただきます。