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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇地域文化と「愛媛学」

武智
 一般的に文化と言いますと、芸術や文学など、特定の選ばれた人々によって作られたものを指すと思われます。これに対し、地域文化とは、特定のエリートによって作られたものではなく、わたしたち一般大衆といいますか庶民が、毎日毎日の生活の中から、非常に長い時間をかけまして作り上げた文化のことではないかと思います。すなわち、それらは衣食住の生活様式や季節の節目に行われるお祭りなど、時間をかけて積み重ねて形成されたものであり、これが地域文化ではないかと考えております。
 県生涯学習センターでは、この地域文化を見つめ直すことの一環として「愛媛学」を構築していこうということになりました。しかし、「愛媛学とは何ぞや。」となりますと、これもまた、なかなか一言では言いにくい。わたしたちが討論を積み重ねていく過程で到達いたしましたのは、愛媛学とは、地域の自然や歴史・風土などによって形成された地域文化を掘り起こし、他県にはない愛媛の個性、これはアイデンティティーと言ったらいいのかもしれませんが、そういうものの確立を目指す「学」ではないかということでした。従来のように、大学の先生とか一部の専門の研究者が地域を調査するのではなく、その地域に住む人々が地域を調べる。すなわち、地域の本当の姿を知っている者は、その土地に住む人々をおいてほかにはないのですから、地域住民が主人公になり、自分たちの住んでいる地域を主体的に調べていく。この調査の過程で新しい発見があり、それに感動を覚え、地域に誇りが持てるようになる。そして、ふるさとに誇りを持つことによって、ふるさとの良さを次の世代に伝えていこうとする活動が芽生える。こういう一連の動きが、身近な地域学としての愛媛学ではなかろうかと思います。さらに、本日のように、城辺町におられる皆さん方が地域に目を向けて調べれば、これはすなわち「城辺学」である。もう少し調査の範囲を広げまして、城辺町が属する南宇和郡という一つの地域的なまとまりを対象とすれば、それは「南宇和学」である。このようにも思っております。
 また、現在、地域の先人たちが作り上げてきた文化が、非常に急速に失われつつあります。そのような時期にあたり、地域特有の文化を記録にとどめて形あるものとして残すことが、最も急がれていることではないかと思います。この意味で、本日御講演をいただきます石原館長さんは、約1,000kmにもおよぶ三重県の海岸線、ちなみに愛媛県の海岸線は1,632kmですが、そこに点在する漁村をすべてくまなく歩かれて、海に関する資料を集められました。そのうちの6,879点が、昭和60年(1985年)に国の重要有形民俗文化財に指定されました。さらに館長さんは、「救え、我らの命の海を(Save Our Sea)」を意味するSOS運動を提唱され、かつ御自身が実践されて今日に至っておいでです。
 それでは、石原館長さんに、「海と、志摩の文化案内人として」ということで、お話をよろしくお願いいたしたいと思います。