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えひめ、昭和の街かど-生活を支えたあの店、あの仕事-(平成21年度)

(1)手作りへのこだわり-家具職人-②

 オ 家具職人の技

 (ア)材料と道具

 「材料は相当な時間(3年から5年)乾燥させます。以前は、高知(こうち)や大阪(おおさか)の材木屋へより良い材料を求めて行っていましたが、今は年をとったこともあり、県内の材木屋で買っています。タンスを作ることで一番難しいことは選木です。木や木目を見て完成した姿をイメージして、これならお客さんに喜んでもらえるタンスができると思って材料を買います。丸太で買うので、割ってみると虫が食っていたりして3回に1回ぐらいは失敗することがあります。作ることは50年以上やっているのでそんなに難しいことはありませんが、道具の手入れは欠かせません。中でも鉋(かんな)やノミを研ぐことには時間をかけます(写真1-1-27参照)。鉋を自分で思ったようにかけれるまでは時間がかかりました。60歳ぐらいになってやっと自分が思うように鉋をかけられるようになりました。」

 (イ)板焼き、歪(ゆが)み直し

 「板を火であぶり、板の反りや歪(ゆが)みをまっすぐに矯正します。私は、板焼きのために下にストーブを置いた専用の鉄板を作り、それで板焼きを行い、反りや歪みを直します。」

 (ウ)木取り

 「タンスを作るのに必要な材料を使用部分ごとに選び、必要な寸法より少し長めに切ります。」

 (エ)板接ぎ

 「板を接ぎ合わせて必要な幅の部材にします。木目を生かせるように板を合わせて糊付けをしていくのですが、糊付けの前に板がピタッと合うように鉋をかけるのです。タンスの正面になる部分にはかがみ板(厚さが6mm程度の無垢(むく)の板)を貼ります。」

 (オ)幅決め・切り組み

 「継ぎ合わせた板を使用部分の寸法に合わせて切り、天板、側板などの板と板の接合部にホゾ(一方の木の先端を細くして作った突出部のこと、他方の木に穴をあけて、突出部を差し入れて接合する。)を組んでいきます。」

 (カ)タンス本体の組み立て

 「天板と側板などのホゾ組みを合わせてタンスの枠組みを作り、背板を付けます(写真1-1-30参照)。」

 (キ)引き出し、衣装盆の組み立て
 
 「引き出し、衣装盆の枠組みを作り、底板を打ち付けます。」
    
 (ク)引き出しの仕込み

 「タンス本体に鉋で削りながら引き出しを仕込んでいきます。」

 (ケ)全体の調整

 「隙間(すきま)やガタ付きが無いかを点検して鉋で調整したり、引き出しがスムーズに出し入れできるように蝋(ろう)をぬって、金具を付けて完成します。」

 カ 職人の技がすたれていくのは寂しい

 「私はお客さんから直接注文を聞いて全て自分で作っています。少しでも良いものを作ろうと手間を惜しまず誠意を込めて作ると、必ずお客さんが満足して喜んでくれます。それが励みになっています。 
 傷んだタンスの修理もします。嫁入りタンスや祖母の代から使っているタンスなど、お客さんにとっては愛着や思い出のあるものなので、できる限りのことはします。修理では、最近は少なくなったのですが、桐タンスの洗いが多いのです。古い桐タンスで黒ずんでいるものを白くする作業です。金具を外して表面を削りますが、削ってもまだ黒ずんでいるので、それを白くなるまで5、6回漂白していくのです。古いタンスでは、150年前の幕末のころに作られたタンスを修理したこともあります。古いタンスを修理していると、ホゾ入れや楔(くさび)打ちなど見事にやっていると感心することもあります。私が作っているタンスも100年や200年は使えると思います。なぜなら当時に負けない材料を使い、その当時にはなかった技術で作っているので、より丈夫なものができるからです。
 効率重視へと世の中が変わっていくのは仕方がないと思いますが、本来は残らなければならない良い物が今は消えていきます。いくら立派な物を作っても、世の中に受け入れてもらえなかったら消えていくのです。私たち職人も生活をしていかなければならないので、受け入れられなければ作るのをやめるしかないのです。今、松山に家具職人は私一人しかいません。愛媛県でも私だけだと思います。後継者もおらず私の代で終わりになるので誰かに教えたいという気持ちは持っています。家具職人だけでなく、様々な職人の技がすたれていくのは寂しいことです。」

 キ 地域の子どもとともに

 「8年前から味酒小学校5年生の『総合的な学習の時間』の地域の人を知る学習に協力しています。90分の授業が年間3回あります。はじめは子どもを前にしてとまどいもあったのですが、今は1回目に家具職人として私が歩んできた道を話したり、子どもたちからの質問に答えて、2回目からはペン立てをサンドペーパーで磨く作業や、鉋の削り方、木釘の作り方を教えています。子どもたちも手が痛くなったなどと言いながら一生懸命に取り組んでいます。私の気持ちも若返り、楽しい時間を過ごしています。」

写真1-1-27 見事に研がれた鉋の刃

写真1-1-27 見事に研がれた鉋の刃

松山市三番町 平成21年9月撮影

写真1-1-30 ホゾ組みを合わせる

写真1-1-30 ホゾ組みを合わせる

松山市三番町。平成21年9月撮影