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身近な「地域のたからもの」発見-県民のための地域学入門-(平成22年度)

(2)「愛媛学」における調査研究の手順と方法

 ここでは、平成21年度に実施した調査研究(報告書『えひめ、昭和の街かど-生活を支えたあの店、あの仕事-』)を例として、調査の手順と方法について簡単に述べることにします。

 ア テーマの決定

 昭和を生きた人々のくらしに焦点を当てる場合、「くらし」という言葉に含まれる事柄が多過ぎるため、毎年テーマを絞って調査を行います。具体的に言えば、生業(農漁業、行商、職人等)、日常生活(衣食住、家事、交通等)、地域社会(祭祀、行事、共同作業等)のいずれか一つに力点を置きます。平成21年度の場合は、人々の生活を支えた様々な店や仕事に焦点を絞(しぼ)り、地域の人々の生活に密着し地域共同体の一部を構成していた、なくてはならない店や仕事・施設とそれにかかわった人々の生活誌をたどりながら、地域社会や地域文化を見直すことで、ふるさと愛媛の生活や文化の特質を明らかにしました。

 イ 調査研究方法

 実際に地元で店を経営していたり、手仕事をされている方々の協力をえながら、文献調査に偏らず、聞き取り調査や実踏調査など現地調査を中心に行いました。
 なお、調査地域については、東・中・南予のバランスや地域性にも配慮し、できるだけ偏りのないよう総合的に考慮して決定しました。

 ウ 聞き取り対象者の選定

 テーマに沿って、関係する市町や各種団体(農漁協、商工会等)、地域の代表者(区長、青年団、婦人会等)などに電話で連絡を取ります。その際に所属や氏名、調査の目的をはっきりと告げ、了解が得られれば依頼状を送ります。その情報提供や推薦により、調査によって明らかにしたいことや知りたいことを尋ねる相手としてふさわしいと思われる人物を選びます。このほかにも、本や新聞の記事から情報を得て直接連絡をする場合や、はじめから現地に出向き土地勘を得るとともに、通りすがりの人からの情報提供を参考にしながら人物選定を行うこともあります。ただし、その後の資料収集のためにも、関係機関・団体には最初に連絡をします。
 聞き取り調査の対象者は、調査に関する事柄に長い間携わってきた人や調査対象地域に長く住んでいる人の中から選び、本人に連絡して了解を得ます。その際に、調査日時や内容については、相手方の意向を優先し、プライバシーに立ち入り過ぎないようにします。
 平成21年度の「村の鍛冶屋(かじや)」についての調査では、大洲市役所河辺支所に連絡を取り、河辺地区で鍛冶屋を営んでいる方を紹介してもらいました。

 エ 事前の調査

 (ア)文献調査

 聞き取り対象者が決定したら、事前に調査地域と調査対象についての文献を中心に調べます。調査地域については、『愛媛県史』や「市町村史(誌)」等を参考にして調査地域の歴史や文化、産業など基本的な情報を集めます。調査対象については、愛媛県立図書館等で調査対象についての文献を探して基本的な情報を収集し、必要な部分は調査ノートに書き写したり、資料の複写をしたりします。
 前述の「村の鍛冶屋」の調査では、調査地域が大洲市河辺町(旧河辺村)であったため、『愛媛県史』と『河辺村誌』『新刊河辺村誌』から情報を集めるとともに、愛媛県立図書館のえひめ資料室で旧河辺村についての文献を調べました。調査対象の鍛冶屋については、鍛冶の歴史や鍛冶職人の仕事内容、職人の徒弟(とてい)制度などに関する書物に目を通して、鍛冶職人について基本的な情報を収集しました。

 (イ)地図の活用

 調査地域の地形図を手に入れ、地形の特徴や土地利用などを調べます。旧版地形図が手に入る場合は、最新の地形図と比較をして調査地域がどのように変化したのかを考えます。また、地形図以外でも『愛媛県史』や「市町村史(誌)」に町並みなどの地図が掲載されていれば複写をしておき、聞き取り調査の際に持参します。地図を見ながら話を聞くと、聞き取り対象者の話す内容がわかりやすくなり、旧版地形図や昔の町並みの地図などを見てもらうと、それをきっかけに様々なことを思い出してもらえ、興味深い話をしてもらえます。

 (ウ)写真の活用

 調査地域の昭和20年代から30年代ころの町並みや景観を撮った写真を、市町村が発行している“ふるさと写真集”や“市(町村)政○○周年記念誌”などから探します。前述の地図と同様に、写真を聞き取り対象者に見てもらうと、大変懐かしがってもらえ、当時の生活や地域の様子を具体的に語ってもらえます。

 (エ)質問内容の決定

 調査地域や調査対象について集めた基本的な情報や資料を基に質問内容を決定し、事前に聞き取り対象者に送付します。先述の「村の鍛冶屋」の調査では、以下のような質問を考え、対象者に送付しました。

   ○ 鍛冶屋になったきっかけは何ですか。
   ○ 鍛冶屋をはじめたのは、何歳のときですか。
   ○ 修業はどこで、どのようにしましたか。
   ○ 一人前と呼ばれるようになるには、どのくらいかかりますか。
   ○ 1日の仕事内容を教えてください。       
   ○ どのようなものを作ってこられましたか。
   ○ 鍬(くわ)などの製品ができるまでの工程を教えてください。
   ○ 製品を作る時に、一番苦労することは何ですか。
   ○ 注文者の体格・体力などに合わせて道具を作られるのですか。
   ○ 原材料はどこで仕入れるのですか。
   ○ 最盛期はいつころでしたか。
   ○ 最盛期にはどのくらいの注文数がありましたか。
   ○ 最盛期には河辺周辺で鍛冶屋は何軒ぐらいありましたか。
   ○ 鍛冶職人としての思いや心がけを教えてください。
   ○ 鍛冶職人の習俗(打ちぞめ、ふいご祭り)について教えて下さい。
   ○ 昭和20年~40年ころの周辺の様子について教えてください。
   ○ 昭和20年~40年ころの仕事をされている写真や町並みの写真があれば見せてください。

 調査前日には、上記の質問内容を基にさらに詳細な質問も加えていきます。

 (オ)事前の準備物

 忘れてならないのがデジタルカメラとデジタルボイスレコーダーです。デジタルカメラは、聞き取りの様子を撮影したり、聞き取り対象者が見せてくれた貴重な写真を、その場で接写したりするのに使います。メモを取ることは、聞き取った内容を後で再構成するのに役立ち、質問する側の熱意を伝えることにもなりますが、細かなことまで正確に記録するためにデジタルボイスレコーダーで録音しておきます。もちろん、最初に撮影や録音の了解をもらい、デジタルカメラやデジタルボイスレコーダーのバッテリーや電池があるかを事前に確認しておきます。