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愛媛の技と匠(平成9年度)

1 甍の波はいぶし銀

 県都松山市から北へ約30km、高縄(たかなわ)半島の北西部に位置する越智郡菊間町は(図表2-2-1参照)、愛媛県を代表する伝統産業の一つ菊間瓦(昭和55年[1980年]県の伝統的特産品に指定)の生産地としてよく知られている。菊間に瓦業が発達した理由としては、温暖で雨の少ない気候が瓦の乾燥や焼成(しょうせい)に好適であったこと、原料の粘土や燃料のマツ材が周辺から豊富に供給されたこと、海岸に位置し、船による製品輸送が便利だったことなどがあげられる。
 菊間瓦の起源は古く、今から700年以上前の鎌倉時代、弘安(こうあん)年間(1278~88年)にまでさかのぼるといわれている。江戸時代になると、松山藩の保護と振興を受けて、菊間瓦は品質も向上し、一大発展をとげた。さらに、明治16~18年(1883~85年)の皇居造営の際には、御用瓦として採用され、菊間瓦の名が全国に広まった。
 このように輝かしい歴史をもつ菊間瓦は、独特のいぶし銀の美しさから、永年にわたって、一般住宅をはじめ神社仏閣などに広く使われてきたが、最近では、高齢化や後継者不足、建築の洋風化による瓦需要の減少、機械化の遅れによる産地閣競争での後退など、さまざまな課題を抱えるようになった。現在、菊間(浜)地区、葉山地区、亀岡地区に合わせて55の企業があるが、かつて1,000万枚をこえていた出荷数も昨年(平成8年)は800万枚を割り、企業数、従業者数とも減少傾向にある。
 ここでは、そうした菊間瓦の現状の一片を、瓦とかかわって生きてきた人々の姿と心を通して見ることにしたい。

図表2-2-1 菊間町とその周辺地域

図表2-2-1 菊間町とその周辺地域