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愛媛のくらし(平成10年度)

(3)旧正月の重み

 戦前は正月行事を旧暦(太陰暦)で行う風習が各地に残っていたが、戦後急速に衰え、今はわずかしか残っていない。吉田町でも例外ではなく、今回の調査でも昔ながらの旧正月行事を続けているという話は皆無であった。そうした中、吉田地区婦人会(会員約100名)では、10年ほど前から、毎年旧正月前に、養護老人ホーム吉田愛生寮(吉田町沖村)を訪問し、餅つきをして、お年寄りたちを慰問している。**さんに聞いた。
 「吉田地区婦人会では、10年ほど前から旧正月前に吉田中学校の生徒(ボランティア部と生徒会役員など)と愛生寮を訪問してお餅つきをしています。お年寄りにとっては、旧正月の方がぴんとくるようで、新(暦)の正月よりは何か重いみたいです。
 婦人会員は、当日の朝は8時ころから準備にかかりますが、前日も米を洗ったり、あんこを丸めたり、たいへんです。生徒たちには9時半ころまでに来てもらい、お餅をついてもらいます。お餅は全部、きねでつくんです。昔なつかしいだろうということと、初めての経験の子供が多いですから。きねは役場にありますし、うすは、まだ町内にだいぶ残っとるんで、そんなんを借りてきます。お年寄りの中には一緒につかれる元気のいい方もいらっしゃいます。手水は婦人会の役目ですが、これも上手な人がおります。
 お米は吉田公民館が用意します。だいたい2斗(米1斗の重さは約15kg)ですね。なつかしいだろうということで、ヨモギとサツマイモを入れた草餅を必ずつくることにしています。ヨモギは春に採って湯がいて冷凍しとくんです。これも婦人会の役目です。
 今年(平成10年)は、婦人会の役員さん約10人と生徒が20数人参加しました。愛生寮には、お年寄りが約50名いらっしゃいますが、餅つきに参加されたのは30名くらいで、正月の伝統となっていた餅花を作ったところ、お年寄りたちが、『子供のころにはようしよった(よくしていた)。』と喜んでくれました。餅花をぜんぜん知らない子供たちからは、『これをどうしよったの。』と聞かれるので、『昔はこれを神様のところに飾っとったんよ。』という話をしてやったら、みんな喜んでくれました。
 お年寄りたちも、お餅を作りながら子供たちにお話をしてくれますので、いろいろなことが伝えられていきます。子供たちには、『お年寄りはいろいろなことをよく知っておられるから、教えてもらいなさい。』と話していまして、子供たちも素直に言うことを聞いてくれますので、いいしつけの場になっています。子供たちにはこういうところにどんどん参加して欲しいと思いますし、吉田の子供もまだまだ捨てたものではないなと思ってますよ。」