データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
三 藻場の喪失と海面埋立
埋立と藻場
一般に浅海漁場といわれるところは陸地側より干潟・藻場・内湾浅所およびこれに続く浅海域となっており、有用水産資源の生息場として漁場価値の高い海域である。このうち干潟は潮汐によって水没と干出を反復する独特のリズムを要求する水棲生物にとってはきわめて重要なところであり、くるまえびをはじめとするえび類、かに類の稚仔期のものと貝類等はここで生育する。
次に藻場であるが、アマモ(顕花植物)場とガラモ(ほんだわらを主とした褐藻類)場とがあり、前者は内湾の平たんな砂泥質に発達し、干潮線付近から水深八m位までのところにみられ、後者は岩礁性の海岸の干潮線から水深二〇~三〇mのところに形成される。
藻場の役割としては①魚族の産卵場となる ②幼稚仔の生育場である ③水産資源の生産の場となることなどがあげられ、特に水族の再生産の場として重要である。
しかしながら昭和期の高度経済成長のあおりをうけて特に瀬戸内海を中心に近年藻場の減少が目立ってきた。この原因の主なものは①埋立による直接そう失 ②工事中の土砂流出による影響 ③立地工場からの排水による間接的な消滅などが考えられる。
表8-8に瀬戸内海について内海区水産研究所が調査したアマモ場と浅海域の面積の消長を示したが、昭和四一年以前にはアマモ場が二二、六一五haあったものが同年には一〇、六二三haに減少し、半分以下になった。
藻場、干潟およびこれに続く浅海は、地形・潮流・風波・河川などの自然環境によってバランスを保っているが、このうちのいずれかが変わると、これに応じてそこに生息する生物相が変化してくる。特に近年における工業用地の土地造成を目的とした埋立は、港湾設備のためこれに付帯する航路のしゅんせつも行われるので、前浜は急深となり、造成地の突出により潮流の方向も変わってくるほか、企業の種類によっては工場からの排水の影響もうけて付近一円の浅海生物相を特定の数少ないものに変化させ、高次の栄養段階生物への転換効率が悪くなり、その海域の生物生産の基盤が損なわれることになるのである。
水産庁瀬戸内海漁業調整事務局がとりまとめた昭和三〇~四四年における瀬戸内海関係府県別埋立面積を表8-9及び図8-6に揚げたが、これは浅海面積二五万二、四二四haの約七%に相当する。
このようなことから、これを放置しては水産業への影響は甚大なことになるので、前述したとおり瀬戸内海環境保全特別措置法によって埋立の規制措置がとられることとなったためその後は埋立件数、面積とも減少傾向にある。
また一方で、水産サイドからの漁業改善対策としても漁業生産力の増大を目的とした沿岸漁業構造改善対策事業・保護水面管理事業・栽培漁業事業など一連の漁業振興対策が積極的に実施されているがこの詳細については別記のとおりである。