データベース『えひめの記憶』
久万町誌
3 神山の栃の木
むかしむかし、露峰に庄屋がおりました。庄屋の家は大きい構えの屋敷でしたが、座敷がもう古くなってきて、なおさねばならぬようになっていました。
庄屋の家の裏山は北向きの神山でしたが、そこに一本の大きい栃の木がありました。庄屋は村の者を呼んできて相談しました。
「神山の栃の木じゃが、切ってもかまわぬかいのう」
と言いました。皆は神山の栃の木を切るとたたりがあるということを知っていましたが、相手が庄屋ですから黙っていました。そこで庄屋は皆の者に明日から手伝いにきてくれと言って皆を帰しました。
いよいよ翌朝になって、みんなは神山の栃の木を切りに行きました。斧で根元に切り口をあけましたが、どうしても一日で切ることはできませんでした。そうして翌朝になってまた行ってみますと、切り口のところにもとどおり、こっぱ(切りくず)がついています。そこでこっぱを焼いてやっとのことで木を切り倒しました。
その木を庄屋の家まで引こうとしましたが、木はいっかな動きません。仕方がないので近所のおばあさんを呼んできて引かせると軽く動きました。
やがてその木で屋敷を建てましたが、棟上げの日に柱から火が出て、座敷は焼けてしまったと言います。